UXにAIが練り込まれていく
尾原:人間のやりたいことは環境の中に練り込まれています。議事録やシチュエーションのデータをLLM(Large Language Model/大規模言語モデル)にためておけば、「次にこれをやりたいですよね」と先回りできる。LLMは“おもてなしエンジン”に変わります。
だから、近いうちに「生成AI=技術がわかる人だけのツール」ではなくなる。日常的に使うツールのUXにAIが練り込まれていくのです。特に業務フロー関係は。
有園:これまでもTeamsでの会議など、デジタルツールを使って仕事をしてきたので、“パンくず”はたくさん残っています。それをLLMに読み込ませればいいということですね。このお話は、外部のアプリのデータも取り込めるようになる、という話につながっていくのですか。
尾原:その通りです。会議で意思決定された後は、メールで社内外に連絡したり、具体的な提案のためにWord、Excel、PowerPointなどの資料を作成したりすることが多いでしょう。今まではこれらの業務が分断されていました。生成AIによってつながれば、「会議で決定した内容について、メールの雛形を作っておきました」というように、メールソフトやドキュメントツールのモジュールを紐づけて連鎖的に反応させていくことができます。
「次に何をやりたいのか」という行動は、次に使うモジュールを規定します。「これをやるのならこの雛形をセットにする」などと行動の連鎖が埋め込まれる。それが生成AIとアフターデジタルの関係性だと思います。
生成AI時代に強い「Occasion Marketing」
尾原:行動の連鎖が埋め込まれるというのは、マーケティングでも大事な考え方です。昔から、人々の行動に基づいて「Intention Marketing」と「Attention Marketing」があると言われてきましたが、私は生成AI時代に強いのは「Occasion Marketing」だと思っています。
たとえば、中国の「WeChat」アプリでは、位置情報や時間帯に基づいて、そのときに使われやすい他のアプリを表示できます。ショッピングセンターに来ているなら、そこに出店しているドリンク屋のアプリが現れます。そのアプリで商品を選択すれば、すぐに注文して購入できます。やりたいことを検索して探すよりも、「これをやりたいですよね」という行動の選択肢をタップしていくだけで、楽しく快適な体験ができます。そういうマーケティングが重要ではないでしょうか。
今までは、仕方なく「この行動をしやすい人」という属性ターゲティングをしてきました。しかし、「次はこれをやりたい」ということを、その人が残したパンくずから推察できるようになっていきます。それをもとに「状況ターゲティング」をすれば、“うざい広告”から脱却できます。
有園:示唆に富んだお話ですね。高広伯彦さんとの対談でも、Attention、Interest、Search、Action、Shareといった流れの中で、AttentionやInterestといったプロセスが省かれてしまう未来についての話がありました。
結局、なぜAttentionが必要だったのかというと、まずはブランドを覚えてもらって、店に来て買ってもらう。昔はそれしかなかったからです。そして、属性ターゲティングをしていたのも、商品を買う確率が高そうな人を選ぶしか方法がなかったから。買ってくれそうなOccasionがわかれば、そこに合わせて提案できます。
尾原:しかも、もっと先だと思っていたことが、OpenAIの「ChatGPT」でかなりできるようになっています。10年先のSFではなくて、明日から始まる世界として認識したほうがいいレベルになっていますね。
