生成AIに“選ばれる”プラグインへ
有園:次はプラグインのお話でしょうか。
尾原:流石のご推察です。たとえば、ミーティングの後にみんなでご飯に行くというOccasionが想定されるとします。カレンダーにミーティングの場所や人数の情報が埋め込まれているので、生成AIが飲食店情報サービスのプラグインを起動し、近所のお店のリストを出し、予約もしてくれます。
つまり、これまではユーザーが意図してプラグインを選んでいましたが、今後は生成AIがおすすめのプラグインを教えてくれるようになります。だから、プラグインがワークフローやユースケースに埋め込まれることを前提にして、一番に呼び出されるようなものを作ることが重要になっていくと思います。打ち合わせ後の食事、契約の際の法律チェックなど、環境において必要なプロフェッショナルサービスが選ばれる。そういう形でプラグインが豊かになっていくでしょう。
それが広告なのか、ソリューションなのかはあまり関係ないと思います。手間がかかる行動をさっとやってくれるサービスなら、ユーザーは身を任せます。それを信じて、プラグインプレーヤーになることを考えていったほうがいいと思います。
有園:MicrosoftのCopilotで発表されているプラグインの一覧を見ると、「トリップアドバイザー」や「OpenTable」などがあります。理論的には、カレンダー機能と連携すれば、先回りして候補を出して予約まで済ますことが可能になるかもしれませんね。
プラグインについては、生成AIを提供するプレーヤーだけではなく、それ以外の具体的なサービスを提供する企業のビジネスチャンスが増えていきます。例えるなら、スマホのアプリを作れるようになったときと同じですね。
尾原:そうなのです。アフターデジタルでは、リアルがすべてモジュール化されて、API化していきます。そのリアルの専門データベースを持ち、予約などの具体的な行動を実行することがプラグイン先のモジュールの役割になっていきます。
有園:私は、プラグインが革命的なブレイクスルーを起こすだろうと思っています。なぜなら、スマホアプリのエコシステムの場合は、プラグインプレーヤーに相当する方々が自らユースケースを作って使いやすくしていったからです。
「諦めていたこと」を実現できる
尾原:もう一つ大事なことは、生成AIによってユーザーが諦めていたことを実現できるということです。他の手段を選んでいた人たちがマーケットに帰ってくる可能性があるのです。
たとえば、自分の子どもが突然「明日、友達を3人呼びたい」と言ったとしましょう。「instacart(インスタカート)」などのプラグインを設定していれば、「ヘルシーで子どもが喜ぶメニューを考えて、材料を買って届ける」という作業をすべてやってくれます。ここまで手間がかかることを即座にやってくれるものがなかったら、仕方なくデリバリーを頼むかもしれません。「諦めなくてもよくなる」のがプラグインの力だと思います。
尾原:私はドラッカーの「マーケティングとは、売り込み(Selling)をなくすこと」という言葉が好きです。お客さまが商品に魅力を感じ、自然に買いたいと思ってくれることが理想です。生成AIによって、本当にやりたいことをサポートできる。それがSellingをなくすことなんだと個人的には思います。
有園:売れる仕組みをつくるということですね。「買ってくれ」と迫るターゲティング広告をできるだけなくすことにもつながります。
スマホの話が中心でしたが、ゆくゆくは自動車などにも生成AIが組み込まれると思います。生成AIとプラグインの関係はスマホの世界だけで終わりませんね。
尾原:この20年の変化はモバイルを起点として、モバイルUXがリアルを包み、いつでもどこでも接続できるようになりましたが、これからの20年はIoTやモビリティの発達によってリアルが自動的にデータ化されていくフェーズに入ります。実際、既にWalmartでは、従業員がヘッドセットを身に付け、その視界では賞味期限切れの商品が赤く見える。そんな世界で仕事をしているのです。
有園:Microsoftが活用を進める「Mixed Reality(複合現実)」の技術は、既に様々な業務で使われ始めています。そういったお話もまたしたいですね。本日はありがとうございました。
