「次に何をやりたいか」を示すデータが蓄積
有園:「生成AIとアフターデジタル」という大きなテーマを尾原さんに投げたら、どのようなお話になるのだろうか。今回は、そこを出発点に話していきたいと思っています。
尾原:まず、この20年の変化について振り返りましょうか。AIの進化というのは、この20年のアフターデジタル(デジタル技術の浸透によってオフラインがなくなること)的な変化と表裏一体の関係にあると思います。振り返ると、1999年に「iモード」が出てきて、2007年には「iPhone」が生まれ、そこからさらに16年たっています。その間にリアルファーストからモバイルファーストへ移行しました。
私たちの生活も変化し、SNSなどの普及によって多くの人がリアルの生活に関するデータをクラウド上にアップするようになり、大量のデータが生まれました。その中から「ユーザーが次に何をやりたいのか」を示すデータを引き出せるようになる。それが、生成AIにおいて特に重要な点です。
そのため、今回のテーマについて一言で言うと、私たちが「次に何をやりたいか」につながるデータが蓄積されてきている。データが次の行動を示唆するようになり、マーケティングが変化していくと思っています。
デジタル空間に“パンくず”を残す
有園:モバイルファーストといえばスマホを連想しがちですが、自動運転車やIoT家電も含めて、スマートハウス、スマートカー、スマートシティーといったサービスが想定できますね。私たちの行動データが様々なところで生産されている、という表現になりますか。
尾原:童話「ヘンゼルとグレーテル」で例えるとわかりやすいですよ。ヘンゼルとグレーテルは森をさまよっているときに、“パンくず”を残して目印にします。同じように、私たちは「何をやっているのか」「何をやりたいのか」という文脈を示すパンくずを自分でデータ空間に残しながら暮らしているのです。特に、今のZ世代の人たちは当たり前のようにやっていますね。
今、生成AIを活用した「Copilot(コパイロット)」が注目されていますが、今後、何が衝撃なのかというと、「Chat」から「Embedded」に変わることではないかと思います。ユーザー環境に埋め込まれていた「次にやりたいこと」が生成AIによって浮かび上がってくることです。
たとえば、ビジネスのミーティングのシーンで生成AIは何をするでしょうか。ミーティングが終わると、そのミーティングをフォローしている人にメールを送ります。そこにはミーティング動画が添付され、誰がどんなアジェンダで話したかまとめてあります。ユーザーが参加していなくても、自分について言及された部分やToDoリストも提示してくれます。このように、環境の中に「次やりたいこと」が埋め込まれて、先回りで提案する。それが、生成AIの次のフェーズです。UX(User Experience)の中にAIが練り込まれていくのです。
有園:「ChatからEmbeddedへ」というのは、チャットだと自分でテキストを入力して指示する必要がありますが、埋め込まれてしまえば、特別な指示をしなくても会議をフォローしていれば、議事録が届き、自分がすべきToDoリストを示してくれるという世界観ですよね。