DE&Iの観点をマーケターの業務に取り込むには?
白石:DE&Iをインプットするワークショップを実施したことで、社内のマーケターからはどのような反響があったのでしょうか。
大場:ワークショップ後に採ったワークショップに対する満足度を問うアンケートでは、グローバル向けブランドマーケターでは96%、日本向けブランドマーケターでは93%と共に満足度の高い結果となりました。
個々の感想を見てみると、「DE&Iはよくわかっていると思っていたが、改めて自分に盲点があったということに気づくことができた」「自分たちの業務に照らして考えることができ、自分ごと化できた」「自分のブランドのミッションを考えるきっかけになった」「他社事例からコミュニケーションにおけるDE&Iが新たな可能性でもあることを感じた」といった様々な声が出てきました。
理解が深まったという声から、今後の戦略立案やマーケティング活動に活用したいという声まで、受け取り方に違いはありましたが、それぞれに満足いただけたようです。
白石:多様な生活者一人ひとりの当事者視点を見つめ、ビジネスに包括していくことは今後より重要になってくると思います。とはいえマーケターは、売り上げや企業的成長を追っていくポジションですから、具体的にDE&Iの観点を業務に取り入れるのは難しさや課題も多いですよね。
大場:そうですね。ただ歴史のあるブランドとして、長期的に社会課題に向き合い、企業として社会的意義のある取り組みを行うことが、社員のエンゲージメントを高めることにもつながると考えています。
白石:確かにそうですね。社会情勢が不安定な中で、生活者が最も信頼する組織は企業であるという、グローバルの調査結果もあります。その意味で、企業の取り組みは生活者にダイレクトに影響を与えていくでしょうし、消費の背景にある社会課題に対して具体的な姿勢を示して実践していくことは、新しいブランド戦略、そしてコーポレート戦略でもあると感じています。
大場:私たちは月に1回、社内のマーケターや広報担当者に向けて、DE&Iをテーマとしたニュースレターを発行しています。先日は海外の動きを取り上げたのですが「海外はこんな動きをしていると初めて知った」といった感想がありました。弊社はグローバル企業ですのでマーケターには海外の動きも捉えてもらい、DE&Iの視点でブランドとしてどう取り組むかといった積極性を刺激していきたいと考えています。
また、企業としては、今後マーケターから挙がる具体的なアクションアイデアを実行できるかの判断に、トップ層も含めたコンセンサスを得られるかどうかが大きなポイントだと考えています。グローバルブランドとして、DE&Iの観点をさらにしっかりと捉え固めていきたいと思います。
DE&Iとマーケティングを掛け合わせて、新たな価値創造を
白石:マーケティング活動も含めた、全体的な企業成長のために、今後どのような活動を行っていく予定でしょうか。
大場:企業として社会貢献に取り組みつつ、企業成長も追求することはもちろん、投資家の視線やESGの観点などもあります。すべてを両立させることは簡単なことではありませんが、チャレンジし続けていきたいですね。
白石:DE&Iはインターナルとエクスターナルの取り組みがセットであるべきですよね。今回のワークショップをはじめとした様々な活動で社員全体のリテラシーが底上げされ、マーケター1人ひとりがDE&Iを自分ごととして捉えることができれば、小さなことからでも実行フェーズに落とし込めるきっかけになるように思います。
また会社も組織としてDE&I視点でのビリーフを明確にし、ブランド戦略に落とし込んでいく。そして新しい取り組みに挑戦するバッファを持つことでそれを推進する。そうすれば多様性における社会課題を解決する提案をマーケティングの側面から実践でき、生活者の新たな選択基準にも対応できる。DE&Iとマーケティングが掛け合わさった、新たな価値創造のサイクルが構築できるのではないかと考えています。
大場:そうですね。ダイバーシティはインクルージョンがあって初めて生かされます。資生堂は多様な人材が活躍できるインクルーシブな土壌、組織を作ることが重要だと考えています。
日本社会は一般的に同調圧力が強いと言われていますが、そういう意味でも資生堂が取り組むことで、日本全体がそうした新たな価値創造の取り組みをすることにつながればと考えます。現在、資生堂DE&Iラボは多様性と企業成長の関係を解明する研究を、東京大学の山口教授とのチームで進めている最中です。
マーケターが活用できるようなエビデンスを出し、インクルーシブをしっかりと高める。かつそれを公表し社会に還元することでDE&Iの実現と経済成長が両立する社会への提案を行っていきたいと考えています。
