「商品」が無理なら「売り方」を差別化せよ
高級ホテル・旅館・レストラン専門の予約サイト「一休.com」を運営している一休。旅行業界は、新型コロナによる影響が最も大きかった業界の一つと言って良いだろう。そんな中でも一休は順調に成長を続け、2022年と2023年の国内宿泊販売額は、コロナ禍以前の2~3倍まで伸長している。
「市場が伸びて追い風に乗っているわけでもなく、マーケティングなどの投資で売上を伸ばしているわけでもなく、事業規模が小さいために大きな成長に見えているわけでもありません。当社が成長できている理由は、データドリブンな会社に変身したためです」と語るのは、同社の代表取締役社長・榊淳氏だ。
一般的に、企業が他社と差別化をする方法は「商品の差別化」と「売り方の差別化」の二通りある。一休は自社で商品をつくるメーカーではなく、取り扱う商品は競合の予約サイトと基本的に同じであるため、商品での差別化は難しい。さらに、売り方で差別化をするにあたっては「売り場」「プロモーション」「価格」の最適化を図らなければならない。この最適化に一休はデータドリブンで取り組んでいるという。
売り場の最適化の一例が、検索結果パーソナライズだ。たとえば一休.comでは、Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんの5人が「東京エリア」「12月20日から1泊1名」と同じ条件で検索をしても、人によって表示される検索結果が変わる。顧客の閲覧履歴や宿泊履歴などから、最もその人の好みに近い宿を推測して検索結果に反映しているためだ。
また、同じ人の検索結果でも検索条件によって内容が異なる場合もある。Aさんが「7月24日から1泊、沖縄」で宿泊するホテルを探しているとしよう。検索条件が「2名1室」であれば、カップル利用を想定してリゾートホテルがトップに表示される。一方「1名1室」での検索であれば「出張かもしれない」とプログラムが判断して、那覇市内のビジネスホテルがレコメンドされる。また「3名1室」であれば、大人数で楽しめるコンドミニアムなどがレコメンドされるようになっているのだ。
ページビュー単位で購入確率を予測
価格最適化の取り組みとして、一休では顧客別にプライシングをしている。具体的には「あなただけの特別クーポン ◯◯ホテル限定で使える5,000円オフクーポン」などのオファーを出しているのだ。
「この手のクーポンは様々な企業のプロモーションで見られますが、当社では『このお客様がこの宿を予約する確率が約◯%で、そのときの購入金額は◯円だと想定されるから、◯円オフクーポンを発行するべき』という計算を一人ひとりに対して行った上でクーポンを発行しています」(榊氏)
さらに一休では、ユーザーがサイト訪問中の状況に合わせて3,000円オフクーポンを発行するなど、リアルタイムでのプライシングも実施している。特徴は、顧客のページビュー単位で購入確率や購入金額を予測して計算し、クーポンを発行している点だ。
「今まさに予約しようとしているお客様や、そもそも予約するつもりがないお客様に、クーポンを表示しても煩わしく感じられてしまいます。喜ばれるのは『どうしようかな』と迷っているお客様です。その方の背中を押せるように状況を計算して、クーポンを表示するようにしています」(榊氏)
榊氏は「データドリブンな組織で持続的な事業成長を実現するためには、顧客の徹底理解が不可欠である」と強調する。一休では顧客理解をどのように行っているのだろうか。