圧縮した情報を視聴者に“解凍”してもらう
ジングルの続きを消費者に託すことは、消費者に”問題”を解いてもらっている状態に似ています。学生時代、問題を解くという行為によって知識が定着していった経験はありませんか?

パリッといこう篇では「カルビーの~」で発せられた問いに、消費者が答えようとします。このプロセスによって、消費者の頭にカルビーのCMであることが強く認識されていくのです。
ここで、クリエイティブカルテに寄せられた自由回答を見てみましょう。
・「カルビーの~」のフレーズが3回くらい出てくるため「カルビーの何だろ?」と思って少し見てしまう(女性20代)
・「カルビーの~ポテトチップス♪」が頭に勝手によぎって印象に残った(男性50代以上)
・「カルビーの~」で引っ張るところがいい(男性50代以上)
・CMソングに耳なじみがあり、つい続きを歌いたくなる(女性50代以上)
自由回答を見ると、ジングルの続きを言いたくなっている消費者の様子が伝わります。実際【図1】の「ブランド識別性(=そのブランドのテレビCMだとわかる)」を見ると、パリッといこう篇のスコアは72.5%で偏差値はAランクです。ブランド記憶という点において「カルビーの~」であえてストップしている表現方法は非常に効果的だったと言えるでしょう。
また、パリッといこう篇では「カルビーの~」を2度リピートした後、フル尺で「カルビーの~ポテトチップス♪」を入れています。ここで消費者は、ある種のモヤモヤ感がクリアになり、問題が解けたような爽快感を味わうことになるのでしょう。その気持ちの良い感覚がテレビCMの読後感として残ったことも要因となり、評価の高さにつながった可能性が考えられます。
「カルビーの~」でジングルを止め「ポテトチップス♪」を消費者に補完させる。巧みな技から生まれる効果は、1つだけにとどまりません。
②“情報を重ねて”より多くの情報を届けている
情報を重ねるとはどういうことでしょうか。パリッといこう篇では「ポテトチップス♪」が流れるはずだった余白に「パリッ」というポテトチップスを食べる効果音や「やっぱり。」「このパリ。」といった、川口春奈さんのセリフを入れ込んでいます。つまり、
・「ポテトチップス♪」の想起
・ポテトチップスを食べたくなる要素(効果音・セリフ)
この2つが重なって消費者に届く仕組みになっているのです。
情報を重ねることにより、訴求したいことがより多く伝えられます。伝えたいことをそのままストレートに表現しても、表面的に認識可能な映像や言葉しか受け取ってもらえません。一方、このCMのように「ポテトチップス♪」のメロディーを想起させつつ、その瞬間にポテトチップスを食べる効果音や食べたくなるようなセリフを乗せることで、多くの情報を届けることができるのです。クリエイティブカルテに寄せられた自由回答からも、消費者の内容理解が深まっていることが見てとれます。
・ポテチの魅力を伝えられていると思う(男性20代)
・製品の特徴だけを簡潔に伝えているので非常にわかりやすくて良い(男性40代)
【図1】の「内容理解度」でも、パリッといこう篇は偏差値Aランクでした。商品とその特徴を表す2つの要素を圧縮して届け、視聴者に“解凍”してもらう。この点も優れていると言えるでしょう。
また、単なる情報の解凍作業にとどまらず、絶妙なリズム感に乗せて解凍させている点にも注目すべきです。「カルビーの~(パリッ)」は「1(カルビー)・2(の~)・3(パリッ)」という形で「いち、に、さん」のリズムを形成し、3拍子目に情報の解凍が起こります。「ポテトチップス♪」の想起と心地の良い効果音で解凍を促すことにより、ポジティブな感情とともに内容理解が進んだと思われます。