「どれだけ面白いことをできるか」でOSAJIは広がってきた
茂田:僕達はマーケティングの4Pで言うところのプロダクトを大切にしています。自信をもってプロダクトアウトで市場にローンチする。反応が悪かったら無理に売ろうとせず、プロダクトの弱さを受け入れてフィードバックする。シンプルな話ですね。もちろん、プレイスやプライスを変えて試すことは大事ですよ。
これが、代理店さんのロジックになるとプロダクトはロックされてしまって、プレイスもほとんどデータが取れる範疇で回すことになって、プライスとプロモーションだけで議論されていると感じます。なんと言うか、4Pの中でプロダクトが軽んじられてきたと感じますね。
でも、プロダクトを求めていない人に無理に売りつける必要はないんです。お客さんとwin-winな関係性と心地良さを築けて初めてビジネスは成立するものです。それに反することはやらない。それだけのことだと思っています。ですから、たとえば、OSAJIを7年やっていて1度も定期販売のリクエストがないからサブスクもしていません。
飯髙:サブスクはLTVで図りやすいという、売り手にとっての都合の良さがありますよね。4Pのプロモーションもプライスも「競合他社はこのセールに5,000円で出します。だから4,500円すると売りやすいですよ」と売り手の理論です。もちろん値段も購入判断の要素ですが、お客さんは自分にとって何が欲しいかを見極めて買っている。その点でプロダクトが軽んじられているという考えもわかります。
では、OSAJIは無理に売らずに、お客さまとはどのようにコミュニケーションをとっているのですか?
茂田:新商品が出れば当然、お知らせとしてメルマガは配信しています。あとはプロダクトだけでは伝えきれない思いをお伝えする「OSAJI Jornal」をデジタルで運営しています。インスタライブも時折していますし、インスタ広告もしていますが、リマインド的な役割だと考えています。広告を見れば、たとえば「そろそろ買い足さなきゃ」と思い出していただく機会になります。それ以上の無理はしていませんね。

闇雲にECに誘導するといったこともしません。お客さんが買いやすい場所で買えばいい。そのために店舗や自社EC、amazonとチャネルを増やしています。お客さんがどこで買っているかパラメーターだけ見て施策を回し始めると、それこそ、いらないメールが届き始めてしまいますよね。
飯髙:とはいえ、見なきゃいけない数字もあると思います。良いものを作りたい、でも、ビジネスは広げなければならない。この両立はどうされていますか?
茂田:OSAJIに関しては本当にありがたいことに、目標の予算は達成してきているんですよね。OSAJIが広がっているのはスタッフの日々の努力が大前提ですが、やっぱり「どれだけ面白いことをやるか」でしかないと思っています。僕達は作るのが好きで、わくわくして何かを作り、そのわくわくをお客様が受け取ってくれる。この関係性でしかないんです。そこから自然にバイラルしていくことが大事。綺麗事ではなくそう思っています。
たとえば、蔵前に「kako〈家香〉」というホームフレグランスを調香できるショップや、鎌倉に「enso」という元芸者置屋をリノベーションした食と香りの複合施設を作っていますが、これも「こんなのできたら良いよね」と僕達がわくわくして、楽しくてたまらないと考えたものです。そのユニークさを多くのメディアやインフルエンサーの方々が受け止め、取り上げてくれました。もちろんPRさんも入っていますが、無理なPRはしていません。

企業コラボも無理にねじ込むといったことはせず、良い温度感で相手も僕達も楽しめる方とご一緒しています。OSAJIとコラボ先さんがわちゃわちゃしている姿をお客さんが楽しんでくれている感じですね。
コラボしないのがブランドの崇高さだと思ったり時期もありました。でも、いろんな人と出会って、いろんな可能性を見ていくことがモノを作る仕事の楽しいことだな、と気づいたんです。
自信がなかったからこそ、迎合した時もある
飯髙:良いものを作りたい・楽しみたいという軸がOSAJIをやる前から茂田さんにあって、一方でマーケティングを試す中で違和感を重ねていって、今までの「そうじゃないよね」という負の部分を取っ払ったものがOSAJIなんですね。
茂田:でも実は「僕が作るものは売れないんじゃないか」と思っていた時期も長いんです。化粧品事業の前にビジネスの失敗を経験していますし、ダイレクトマーケティングをやっている中で、効率よくどんどん売れていくブランドもありました。でも、僕のブランドは売れないわけです。だから、疑問を持ちながらもマーケティングに迎合していた部分もあります。どこか、市場ニーズってこうでしょと知ったかぶって売っていました。
OSAJIを始めた際は一点の曇もなく、作りたいものを作りました。純粋に自分が作りたいものを作れば、ちゃんと反応してくれる人がいると知って、それ以降、スタッフの総意として自分達が作りたくないものは作らないという思いになりました。