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飯髙悠太氏が探る「エモ」と「ビジネス」と「成長」

目指すは、生産者のこだわりが正当に評価される世界。食べチョク躍進の裏にある戦略とビジョン

 熱い作り手精神と、冷静なビジネスパーソンの精神を併せ持つ経営者はどのように事業を成長させているのか? 選び直せるソーシャルギフト「GIFTFUL」を運営する飯髙悠太氏が、作り手の方々へインタビューを重ねてきた本連載。今回は、作り手と買い手をつなぐ立場の視点にフォーカス。生産者と消費者をつなぐ「食べチョク」を運営するビビッドガーデン代表の秋元里奈氏にうかがいました。

本記事は6月24日まで無料でご覧いただけます

生産者がきちんと儲かる仕組みを作りたい

――産直通販サイト「食べチョク」は青果販売の当たり前を変えたと感じています。2024年2月には会員数100万人を突破しましたね。本日はそんな食べチョクのこれまでの歩みや、これから目指すことなどをうかがいたいと思います。まず、このビジネスをはじめた背景を教えてください。

秋元:実家が農業を営んでいたのですが、私が中学生の頃に廃業したんです。背景には、当時は小さな規模の生産者が野菜を高値で売れる仕組みがほとんどなかったことがあります。生産者さんがきちんと収益を得られるようにしたい、それが出発点です。

株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長 秋元 里奈氏
株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長 秋元 里奈氏

 価格設定は高めでも、食への関心の高い人から支持されているファーマーズマーケットはあります。そのような仕組みをオンライン上で作りたいと考えました。オンラインなら、リアルイベントへの参加が難しい地方の生産者さんでも、こだわりを持って作った食材を東京の生活者に購入してもらえると思ったのです。

 現在、生産者さんの登録数は約9,600軒。生産者1軒あたりの月間最高売上は、2021年の前回調査時と比較して全カテゴリーで更新されています。

生産者別 月間最高売上(2024年3月時点)
生産者別 月間最高売上(2024年3月時点)

 しかし、2017年のローンチから数年は苦戦の連続でした。スーパーや朝市、ECなど野菜を購入する場が既に複数ある中で、生活者に食べチョクを選んでもらうという理由付けをどう設定するかが課題でした。

 また、食べチョクは「お客様が生産者さんから直接食材を購入できる」点が大きな魅力なので、そこをどう伝えていくかも課題でした。

「生産者応援」での成長は偶然じゃない、戦略と投資

秋元:流れが大きく変わったのは2020年。コロナ禍がきっかけです。販路を失った生産者さんを応援する動きが世に生まれ、その手段のひとつとして「食べチョク」に興味を持ってくださる方が増えたんです。

 ようやくサービスコンセプトと認知が紐付き始めたと感じました。そのタイミングで、より一層私自身のメディア露出を増やしました。私が創業ストーリーを伝えることで、生産者さんから直接食材を購入することの意味を伝えたんです。PRや広告を打つより、こちらのほうがサービス利用の促進になることがわかったからです。

 さらに、この時期にテレビCMも展開しました。マーケティングはSNS広告を中心にしていたので、かなり勝負に出ました。

――出稿の判断は応援消費の流れを感じたからですか?

秋元:それもありますが、広告効果を最大化できるのは今しかないと考えたからです。

 時世柄、広告枠の価格が比較的手を出しやすくなっていました。しかも在宅でテレビを見ている人も多いのでCMを届けやすいし、ECも利用しやすい。さらに当時は毎週のようにテレビで取り上げていただいていたので、消費者との接点がある程度生まれている状況でした。

 加えてテレビCMは接触回数が重要ですが、当社の予算にも限りがあります。そこを補う形で私自身が接点になれる。こんなに条件が揃うタイミングが次にいつ来るかわかりません。2020年4月に出稿を決め、7月に実施した結果、大きな反響を得られました。

――コロナ禍で環境が変わったタイミングでメディア露出を増やした企業は、他にもたくさんあったと思います。でも、そこから伸びなかった企業もありますよね。食べチョクが伸びた要因はどこにあると考えますか?

秋元:2つあると思います。システム面とテレビCMの役割の定義です。

 創業時からインフラ投資にはかなり力を入れており、基準をサーバーが「落ちない」でなく「遅くならない」にしています。というのも、前職(ディー・エヌ・エー)でゲーム事業に携わっていたのですが、ユーザーがゲームを辞める理由で多いのは「ロード時間の長さ」なんです。スピードにはこだわってきました。

 結果として、テレビ紹介後に急増したトラフィックにも耐えられました。当たり前だと思われるかもしれませんが、受け皿がしっかりしているかは差別化につながると思います。

 また、テレビCMのメッセージとサイトで伝えるメッセージを明確に分けたことも大きいと思います。初めての出稿だと企業の思いを伝えたくなるものですが、テレビCMは食べチョクへの訪問を促すものと割り切ってサービスの便益だけを訴求しました。そして、生産者さんや食べチョクの思いを伝えるコンテンツはサービスサイト側に用意したんです。

テレビCMと、テレビCM展開当時のサービスサイト
テレビCMと、テレビCM展開当時のサービスサイト

――まずは興味を持ってもらい行動を促し、その先で理解を深めてもらう戦略だったんですね。そして、初めて食べチョクを知った人がストレスなくサービスを使えるようにした。コロナ禍で複数の「たまたま」が重なったことが躍進の背景にありつつも、それだけではなかったのだとあらためて感じます。

秋元:ありがとうございます。このように「良い食材を直接生産者さんから購入したい」人たちへアプローチした結果、初期ターゲットに関してはかなりPMFしたと感じるようになりました。しかし、他の部分にもアプローチしていかないと、ある程度のサービスで終わってしまうものです。お客様が増えるとニーズも多様化します。昨年からはサイト上のコンテンツを増やし「純粋に食の関心が高くて美味しいものを探している人」たちに向けてアプローチしています。

生活者ニーズを把握しながら生産者を拡大

――需要と供給のバランスを取るためには、生産者さんを集める必要もありますよね。どのようにして集めていったのですか?

秋元:初期は直接現地に足を運び、生産者さんに私たちの思いを伝えることで登録してもらいました。100名を超えたあたりから自然と登録が増えました。生産者さんが他の方に教えて広がった形です。生産者さんに寄り添うという強い気持ちと、一貫性のある取り組みを続けたことで信頼できると判断いただけたのだと思います。

外部要因によって影響を受ける生産者状況の把握・発信・サポートを目的にした「生産者非常事態サポート室」を常設。豪雨や震災など非常事態における支援を行なっている
外部要因によって影響を受ける生産者状況の把握・発信・サポートを目的にした「生産者非常事態サポート室」を常設。豪雨や震災など非常事態における支援を行なっている

 大きな取り組みとしては、コロナ禍のタイミングで登録生産者の基準を緩和したことがあげられます。最初食べチョクでは、農薬化学肥料の使用が基準値の半分以下の生産者さんのみ登録していただいていました。知名度のないサービスが「私の選んだ美味しい野菜です」といっても説得力がない。客観性があり説得力を持たせるために、まずは客観的基準のあるオーガニックからスタートしました。

 ただ、慣行農法(基準値内の化学肥料や農薬を使用する方法)で美味しい野菜を作っている生産者さんたちが数多くいることも知っていたので、最終的には基準を緩和したいと考えていました。コロナ禍で販路がなくなってしまった方を見て、前倒しで緩和することに決めたのです。

――お客様が離れていく心配はありませんでしたか?

秋元:既存のお客様のニーズを確認した上で決断しました。アンケートで「農薬化学肥料をまったく使っていない」「農薬化学肥料はなるべく少なくしてほしい」「おいしければ農薬化学肥料の量は気にしない」から選んでいただくのですが、実は「おいしければ農薬化学肥料の量は気にしない」を選ぶ方が多かったんです。

 また、食べチョクに登録されている生産者さんは飲食店に出している方も多く、飲食店で扱うような質の高い食材が集まっているというブランドイメージが定着していました。お客様が生産者さんを選べる仕組みさえ整えていれば、登録生産者の基準を広げたからといって、お客様が離れていくことはないだろうと考えました。

ECで終わらせない、生産者と消費者がつながる仕組み

――基準を広げ、食べチョクに登録してくださる生産者さんが増えたからこそ見えてきた課題はありますか?

秋元:EC販売のノウハウがあるかどうかの差が目立つようになってきました。皆さん良い食材を作っていることは共通しているのですが、梱包や商品説明のノウハウがないために、魅力を伝えきれていない方もいて。私たちがマニュアルを作ったり、出品のフォローアップを個別で行ったりしてきました。

 ここでもコロナ禍が重なったことが大きな影響を与えました。オンライン会議が定着していたからです。生産者さんたちも当たり前のようにツールを使いこなせていたので、スピード感をもって進められたと思います。

――生産者さんとユーザーさんをつなげるという点で工夫していることがあれば、教えてください。

秋元:「1回購入したら終わり」といったECサイトではなく、お互いがつながるSNSのように使っていただけるようサービスを設計しています。

 たとえば特定の基準を満たしたお客様向けの「お得意さま認定機能」があります。この機能の大きな特徴のひとつは、お得意さまが生産者さんごとに紐付いていることです。生産者さんはそのお得意さまに対して限定商品などを届けることができる一方、お得意さまはその生産者さんの推薦コメントを投稿することができます。

推薦コメントの例
推薦コメントの例

 お得意さまが宣伝担当となり、生産者さんと一緒に商売を盛り上げていくようなイメージです。

――投稿したお得意さまがその生産者さんから何回購入したかも表示されているんですね。10回も購入している人が勧めるなら自分も買ってみようかなという気持ちになりそうだなと思います。

toCとtoBはリンクしている。福利厚生やギフトニーズも

――個人向けだけでなく、法人向けの「食べチョク for Business」も展開されていますよね。

秋元:健康経営やSDGs、CSRの一環として利用される企業様も多いですね。

 元々toB向けのサービスは展開していたのですが、コロナ禍で飲食店に大きな影響が出たので一度中断していました。その後、toC向けサービスの認知が高まった頃に福利厚生や農業研修として興味があるとお声がけいただくことが増えました。そこで、2022年秋からはtoB専門の部署を作って対応しています。

 toBとtoCのサービスはリンクしていると思います。たとえば会社の福利厚生でご利用いただいた従業員の方が、個人的に食べチョクで購入いただく可能性もあるからです。

 また、最近はギフトニーズも増えています。ギフトを贈る人は食べチョクを知っていても、受け取る人は「メロンをもらった」で終わってしまうことがほとんどです。そこで現在は食べチョクで買い物ができる券をギフトとして贈れるようにしています。するとギフトを受け取った人も食べチョクユーザーになっていただけます。

現在の食べチョクの仕組みが正解だとは限らない

――今、課題と感じていることがあれば教えてください。

秋元:「生産者さんから直接取り寄せることを日常にする」には、まだ遠いと感じています。たとえばユーザーインタビューをしていると、ハレの日用に使われているケースが多く、私たちの目指すところにはまだまだ遠いなと。

 また、「いろいろな種類の野菜の詰め合わせ」を届けられる多品目栽培の生産者さんに対するニーズと比べると、単品目栽培の生産者さんへのニーズは小さいと感じます。送料を考えると、一度に多くの野菜を注文するほうが負担は少ないもの。同じ種類の野菜ばかりをたくさん送ってもらうより、いろいろな種類の野菜を楽しみたいお客様もいらっしゃるでしょう。

 しかし、ひとつの味を突き詰めている生産者さんの中にも素晴らしい方はたくさんいます。個人のお客様に多く購入していただくことは難しいとしても、レストラン卸をするなど販路を広げていけば、課題の解決につながるのではと考えています。

 現在の食べチョクの仕組みが正解ではない可能性があることも踏まえながら、物流含め、様々な課題を解決していきたいです。

 さらに、食べチョクは生産者さんの課題を解決するソリューションのひとつに過ぎません。私たちが実現したいのは、生産者さんのこだわりが正当に評価される世界です。生産者さんが自分たちのこだわりを次の代につなげたいと思えるような、収益性の高い農業をできるようにすることを目指しています。

 生産者さんの困り事は多種多様です。たとえば、人材が足りないから生産量を増やせない、生産量を増やしたくてもお金が足りないという方もいらっしゃいます。こだわりをもっている生産者さんの収益を上げるためのソリューションを複合的に提供していきたいと考えています。

――なるほど。会社名をプロダクト名に変える企業もある中、ビビッドガーデンが食べチョクに社名を変えない理由が理解できました。あくまでも生産者さんの課題解決が軸なのですね。秋元さん、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

編集後記:飯髙悠太

 秋元さんが食べチョクを立ち上げた理由は、実家が農業を廃業した背景に、小さな規模の生産者が野菜を高値で販売する仕組みがほとんどなかったこと。「生産者さんがきちんと収益を得られるようにしたい」ことが出発点。

 2017年のローンチ後は既存の販売チャネルがある中で、生産者に選んだもらうという理由づけが課題だった。 しかし2020年のコロナ禍がきっかけで、販路を失った生産者さんを応援する動きが生まれ、その一つの手段として食べチョクに興味を持ってくれる人が増えていった。タイミングの良さも秋元さんのおっしゃる通りあると思うが、そのチャンスを見逃さず自身のメディア露出を増やし、テレビCMも行なった。接触回数が重要なテレビCMの回数を、ご自身が接点になることで補えるという考えのもと勝負に出た形だ。

 加えて、システム投資にも注力。サーバーが「落ちない」だけでなく「遅くならない」にこだわり、テレビで紹介されても揺らがない使い心地を実現した。

 コロナ禍がきっかけでメディア露出が増えた企業は他にもあったが、食べチョクは時機を読み、まずは興味を持ってもらい行動を促し、その先で理解を深めてもらう戦略があったと知れた。

 生産者が増える中で、EC販売のノウハウの差によって、売れるかの差異が出たので、個別にフォローアップをしマニュアルを作ることで生産者間のECスキルの差を無くしていった。さらに、ユーザー口コミより上部に「お得意さまの推薦メッセージ」があるのは、ヘビーユーザーのリアルな声を知れるのは大きいと思う。意外と他のサイトでもありそうでない機能なのではないだろうか。

 秋元さんが目指すものは広大だ。食べチョクは生産者の課題解決をするソリューションの一つにしか過ぎず、目指すは生産者さんのこだわりが正当に評価される世界。そのためにソリューションを複合的に提供していくことを考えている、今後の食べチョクに注目していきたい。

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飯髙 悠太(イイタカ ユウタ)

株式会社ベーシック執行役員、株式会社ホットリンク執行役員CMOを経て2022年6月に「ひとの温かみを宿した進化を。」をテーマに株式会社GiftXを創業し、「おもいが伝わる。ほしいを贈れる」選び直せるソーシャルギフト「GIFTFUL」運営。現...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2024/06/10 09:30 https://markezine.jp/article/detail/45533

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