山登りのお手本ポイント1:あえて難易度の高いほうへ向かう店舗展開
シーフードの食文化を持つ海に面したロサンゼルスやサンフランシスコ、あるいはニューヨークへの店舗進出ならば、日本文化にも理解があるのでSUSHIビジネスは受け入れられやすい。一方生魚には縁遠いBBQやステーキのメッカとされる南部テキサス州オースティンやイリノイ州シカゴ、砂漠のネバダ州ラスベガスへ向けて、わざわざSUSHIビジネスを(あなたなら)展開するだろうか。
Kura Sushi USAには、あえてこのハードルの高いほうに向けて店舗展開していくシナリオがIPO前から存在していた。基点とするカリフォルニア州11店舗で基盤を作り、ここでの収益や実績をテコにあえて難易度の高い内陸州に9店舗を出店し、その手応えとともにIPOを果たしている。
山登りのお手本ポイント2:親と子が逆転する気配も
図表1は、Kura Sushi USAの2020年と2023年(8月末決算)での業績比較だ。2009年にカリフォルニア州アーバイン(日系・アジア系の多い地域)に1号店をオープンしてから、2023年に初の営業黒字化を達成しつつ、投資CFは2020年時点の約3倍規模に増額させている。10年かけて米国からの資金調達基盤を整えて、その資金を米国市場へ再投資している。そろそろKura Sushi USAの「芽吹き」が見え始める頃だ。
時価総額は日本の親会社である「くら寿司」が1,520億円、Kura Sushi USAは約1,440億円(※2024年1月時点、1ドル=145円換算)。親子会社での重複調整がない、単純なる東証とNASDAQの株式市場での数字ではあるが、何やら親子逆転の気配すら見えてくる。親にとっては、嬉しい限りの子どもの成長だ。
日本企業のグローバル進出における負の遺産
手放しの賛辞だけではなく、日本企業共通の欧米事業での課題も指摘しておこう。Kura Sushi USAのトップは、米国法人設立から現在まで日本の駐在員が務めている。小さくも堅実に未来を創っている実績者として称えつつ、ここはあえてグローバル市場への展開を見据えたバトンタッチを期待したい。
既にKura Sushi USAはNASDAQ上場を踏まえ、米国ハンバーガーチェーン大手「シェイクシャック」の元CFOを米国財務のプロとして迎えている。米国IPO企業として成長するなら、取締役やCEOの布陣も米国を知り尽くすツワモノが担ってこそだ。米国企業の日本進出に置き換えてみても、日本法人は日本の人がCEO級で采配をするほうが、外国籍の方が采配をするよりもイキイキとした組織になるのは想像できる。
米国(グローバル)にて事業を展開する大手日本企業でも、いまだに駐在員様が米国法人トップを交代制で担う形態が残っている。各事業ステージ次第とはいえ、新興勢力として登頂を目指すなら、「困難なほうへの山登り」で進出のあり方を考えてみたい。
出典
1.2023年8月決算:https://ir.kurausa.com/static-files/73a316c3-579d-460f-9cf4-30b0dc48fc52
2.2020年8月決算:https://ir.kurausa.com/static-files/4dd73711-72f3-4709-a918-227ad81e986e
