コロナ、不況、戦争……人々の価値観が大きく揺らいだ時代
MarkeZine編集部:本日は、2024年2月末に発表された「Accenture Life Trends」を基に、昨今の社会トレンドを俯瞰で読み解きつつ、その状況下で日本企業が取るべきアクションについて考えていきたいと思います。まずは「Accenture Life Trends」の概要からご紹介いただけますか。
番所:アクセンチュアは、毎年2本の大きなトレンドレポートを発行しています。1つはテクノロジーの視点から未来を予測する「テクノロジービジョン」、もう1つは人や社会を起点にして未来を予測する「Accenture Life Trends」です。
今回ご紹介する「Accenture Life Trends」は、日本を含め世界中にいるアクセンチュア ソングのデザイナー、ストラテジスト、社会学や人類学、テクノロジーの専門家が集まり、世界各国・各エリアで見られる社会トレンドを集約・分析した上で、重要なトレンドを見出す形でまとめています。さらに、日本の皆様に向けて、グローバル版をベースに国内の状況も踏まえ、私たち日本メンバーで事例や日本企業への示唆を追加した日本ローカル版もご案内しています。
MarkeZine編集部:では、ここ数年の「Accenture Life Trends」の変遷について教えてください。
番所:コロナ禍前~コロナ禍中~コロナ禍後を経験した過去5年を振り返ると、本当に大きな変化があったことを改めて実感します。
まずは、コロナ禍前の社会状況がまだ色濃く反映された2019~2020年。私たちはこの時期を「豊かさゆえの飽和から、本質を探究する時代」と定義していました。商品やサービスの良し悪しを判断する時、「自分にとって良いか?」だけでなく、「社会全体・地球環境全体にとって良いか?」を多くの人が意識し始めたのがこのタイミングです。以降の時期と比較すると、価値観や考え方の軸足が「自分<社会」に向いていたとも言えます。
続いて世の中がコロナ禍に陥った2021~2022年は「パンデミックの混乱と喪失から、内省を深める時代」でした。コロナ禍のパンデミックでは、従来の常識がまったく通用しませんでしたよね。あらゆる場面で「新しい領域の地図づくり」が必要になる中で、この時期の人々は「組織・集団<自分」という価値観を強く持っていたと見ています。
さらに時が流れ2023~2024年、コロナ禍はほぼ収束しましたが、インフレ・デフレの不況や戦争などの影響を受け、人々の生活観はさらに大きく変化しました。多くの人が「数年後にはまた何が起こっているかわからない」といった心境でいるのではないでしょうか。私たちはこの2年を「パーマクライシス*がもたらすストレスに対応する時代」と定義づけており、現在人々は「社会<自分」に軸足を置いた価値観を持っていると分析しています。
*パーマクライシス(Permacrisis): 長期的に不安定な状況にあること。コリンズ英語辞典による「2022年を表す語」に選出。
MarkeZine編集部:たしかに、消費者インサイトに関する取材でも、最近は「他人軸より自分軸」「自分らしさ」「自分が心地よいこと」などを重視する傾向が強いという話をよく聞きます。
木原:もう1つ、この5年程の変遷について特筆すべきは、やはり、テクノロジーの影響でしょう。テクノロジーはこれらの変遷に非常に大きな影響を与えています。
たとえば、パンデミックの渦中、私たちは「隔離された場所にいる自分を、テクノロジーを用いて組織・集団に適合させること」を考えていました。ですが、現在は「必ずしも社会や会社に帰属するのではなく、手に入れたテクノロジーで自分個人としていかに価値を出すか」を考える人が多くなっています。これは言わば、社会の中でいかに人が貢献するかという関係を加速させるためのテクノロジーから、その従属性から自由になるためのテクノロジーへと変化してきたことを意味すると考えられます。