AI技術の進歩によって進む「定量データ」に基づくマーケティング
MZ:昨今では、企業のマーケティングにおいてAIを活用する動きが盛んになっている印象です。恩蔵先生が注目する、今後活用が期待される領域に関して伺えますか?
恩藏:現在の我々の研究から一つを挙げるなら、AIによってビッグデータを分析することで可能になる、広告効果のより高度な検証でしょう。
そもそもマーケティング活動は基本的に支出を要するものですが、特にコミュニケーションの領域、広告には費用がかかる。企業としては当然、その費用対効果について慎重に着目すべきですが、実際どれほどなのか正確には把握できない。一昔前までは「広告の半分は無駄。だが、どの部分が無駄なのかはわからない」などといわれ、すべてが無駄だとは思っていないにしろ、相当部分は無駄になっているだろうと認識されながらも、そうした問題が特定できずに進められてきました。
一方、マーケティングの研究水準は、ビッグデータの蓄積やAIによる分析技術の高度化などによって、飛躍的に高まってきています。
近年のマーケティング研究の流れは、大きくビヘイビアルとクオントに分かれます。ビヘイビアルとは「行動面」を意味し、顧客の行動を深く分析していこうという流れです。その際、心理学や社会学などの知見が援用されます。一方、クオントが意味するのは、”定量面“。ビヘイビアルが調査や実験に重きを置くのに対して、クオントでは主として行動データを使って高度な分析を行います。先端的な統計学やコンピュータサイエンスの手法や枠組みを用いて、消費者の購買行動はもちろん、企業の様々な意思決定などを分析し、解明していきます。クオント・マーケティングが注目されるようになった要因は、精緻な各種データを得られるデバイスの進化と、ビッグデータが蓄積されて、マーケティング研究者たちが容易に扱えるようになったことにあります。
先述のような広告の費用対効果に関しても、視聴に関する精緻なデータと高度な分析手法によって、広告効果の計測がより確かなものになりつつあります。そうなれば、現在の業界の仕組みが大きく変わることも予測されます。
人体認識センサーを駆使してテレビ視聴データを進化させる
MZ:広告効果の研究に関して、新しい取り組みについて教えてください。
恩藏:「価値あるマーケティングデータから広告効果を新しい視点で分析する」という研究テーマで進めている、REVISIOさんとの取り組みを挙げてみたいと思います。同社では、テレビCMの視聴データを独自の方法で収集し、ユニークな指標を提示しています。
MZ:独自の効果計測手法について、REVISIOの河村さんからご説明いただけますか?
河村:特徴的なのは、最先端の人体認識技術を用いて視聴データを収集している点です。これにより、視聴者がどのようにテレビを視聴しているのかを精度高く見極めています。
REVISIOでは、注視データを計測するための独自の調査パネルを構築しています。調査にご協力いただいている世帯のテレビに、センサーを搭載した機器を設置し、プライバシーに配慮した形で、世帯にお住まいの個人を自動的に識別して、1秒ごとの視聴データを計測しているんです。
従来のテレビの視聴データは、視聴者のリモコン操作によって1分ごとに測るものでした。これがいわゆる「視聴率」です。別途、テレビがついているかどうかは自動で判別できますが、リモコンによる操作ではテレビの前に人がいる時間や、その世帯の誰が観ていたのかは正確に把握できませんでした。
我々のデータでは、先述の人体認識センサーの技術を使い、マイクやカメラによって、誰が、どの瞬間に注視しているのかを自動で認識でき、それが1秒ごとに搭載されたPCに記録され、クラウドにアップロードされます。これにより、テレビの前にある自然な視聴態度を知ることができるわけです。