将来的には生成まで視野に 表現の根拠を科学で得る
MZ:研究が進むと、将来的にはどのような制作が可能になると考えていますか?
河村:たとえば「20代の女性」「シャンプー」などとターゲットと商材を指定して、直近3ヵ月のデータでよく観られたCMから音も映像も画像もAIが生成して作るといったことができなくはないと考えています。
恩藏:これに近い技術は既にパッケージデザインの領域で成功事例がありますし、ゆくゆくは可能だと思います。

恩藏:広告会社の方々からすると、先ほどの音と音の間を効果的に使う(無音の活用)といった技法も含め、今後データから提案される表現方法の多くは既知のものであり、クリエイターなら知っている定石だろうと思われます。私自身、以前パッケージデザインの研究をしていた際に、効果的なレイアウトのパターンをデザイナーの方に見ていただいたところ、「既に知っている」といわれたことがあります。しかし、それは長年の仕事の経験を通じて得られた感覚であって、なぜそうしたパターンが良いのかというメカニズムは説明してもらえませんでした。我々の研究やREVISIOさんの取り組みは、これまで感覚に頼ってきた判断軸をデータに基づいてメカニズムを科学化することなのだと思います。
河村:特に広告については観られていないと効果は出ないものですから、これまでは存在しなかった「観られるベース」の指標でクリエイティブを最適化するということに意義があると考えています。
データを扱える人材の課題 産学連携も対応策の一つに
MZ:こうしたAIの活用が広がる一方、企業が新たな手法を取り入れ、適切に得られたデータを解釈し、判断を下すには困難さも伺えます。こうした状況で課題となること、その対応策とは何でしょうか。
恩藏:今回紹介したデータベースに基づく分析には、当然、データサイエンティストが必要となります。ところが、日本ではデータサイエンティストが著しく不足しているというのが実情です。幾つかの大学では、政府の助成を受けて学部や学科を創設するなど、データサイエンティストの育成に努めています。
もう一つ強調したいのは、企業も大学も改めて産学連携の可能性を認識すべきだという点です。理系分野ではこれまでも多く行われていたようですが、社会科学系ではあまり行われていないようです。現在ではデータ分析などを通じて行われるようになり、分析すべきデータは企業が持っていて、分析の枠組やスキルは学術研究機関が有しているという構図が生まれています。お互いが補い合える関係になりつつあります。上手く実践すれば、Win-Winになれるのではないでしょうか。
MZ:ありがとうございます。REVISIOとしては今後どのような取り組みに注力していきたいですか。
河村:先ほどのクリエイティブに関する研究には引き続き努めながら、我々の持つ視聴データをより広く、多くの方に見ていただくための活動にも今後力を注ぐつもりです。

河村:というのも、これまでは広告主の各企業様にレポートを提供するといった一対一の向き合い方がほとんどでした。しかし、視聴データを使えば世の中に役立つような情報も提供できると考えています。
現在その一環として、視聴データの一部を公開するサイト「RE.Source」の運営を行っています。同サイトではREVISIOが計測するテレビ注視データを使い、関東・関西地で放送されているテレビ番組の世帯視聴率・注目度(テレビの前にいる人のうちテレビに顔を向けている率)を過去1週間分から見ることができます。我々が独自に計測する注目度がわかるため、視聴者がどれだけ画面にくぎづけにされていたのかを知れるわけです。
このような独自の視聴データを使った役立つ情報発信には、今後も積極的に取り組んでいきたいですね。