消費スタイルは「安さ」や「利便性」の追求へ
コロナ禍では先行きへの不安から節約意識が高まった一方で、「購入前に情報収集」「よく検討してから買う」などの消費意識の伸びが見られた。これは、巣ごもり生活により時間ができたことから生まれた消費傾向だと考えられる。では、こうした消費意識はコロナ禍以降にどう変化してきたのか。
消費スタイルを四つの象限に分けて独自に定義し、2019年~2023年までの変化を調査データから比較した。その結果、外出できないことで浮いたお金を自分がこだわるものに使う消費スタイル「プレミアム消費」の行動が2021年時点では、前年比で22.8%増と多く表れていた。しかし、2023年の調査では、日常の生活を取り戻したことで時間のゆとりはなくなり、プレミアム消費は前年比で3.5pt減少した。
さらに、物価高騰による生活防衛意識の高さは依然高く、消費スタイルは「安さ納得」や「利便性」に傾いている。

消費4象限の変化
もう一つ、コロナ禍で伸びたのが「推し活」消費だ。2021年は、こだわりに対してお金を使う消費が増えたことに加え、ソーシャルディスタンスによる人とのつながりの希薄化から、人々の間で「絆」を求める意識が強まった。このような背景から、好きな人・モノ・コトを応援する、応援消費や推し活消費が活発になり、2023年度時点でも変わらず積極的に行われている。
情報収集もスペックやレビューを単に見るだけではなく、同じものが好きな仲間につながりやすく、互いの体験に共感しやすいSNSでの情報収集が好まれるようになっている。従来のユーザーレビューよりも一歩進み、動画などを活用するUGC(ユーザー生成コンテンツ)の閲覧が好まれるようになった。

推し活の現状
2023年度は広告費の拡大が失速した転換点
次に、メディア側の動向の変化を振り返る。これまで広告業界では、デジタル広告媒体中心に生活者のメディア利用率、および広告主が出稿にかける費用が拡大してきた。しかし、筆者は2023年度がその勢いが失われ始めたターニングポイントだと考えている。
振り返ると、2018年にデジタルメディアが広告収入でテレビを上回り、その反対に新聞や雑誌などの紙媒体や交通広告では減少傾向が続いていた。その後、2020年初頭のコロナ禍で消費者の行動は変容。巣ごもり生活によってテレビ視聴は戻り、デジタルメディアの利用はますます拡大。今後もさらに加速するかのように見られていた。
だが、デジタルメディア利用の急激な拡大は、2023年にやや失速。さらに、コロナ禍で増加したテレビ視聴時間も減少傾向へと転じた。加えて、新聞発行部数の継続的な減少やDXへの足踏みが、メディア業界全体が拡大するスピードを鈍化させた。OOH(屋外広告)もコロナ禍の一時的な減少からは回復したものの、2023年時点で顕著な成長を示すことはできなかった。
このように各メディアの利用が減少・鈍化している現在の状況は、ある種の停滞期のように筆者は感じる。広告業界にとって新しい方向性を模索する重要な時期とも考えられ、その動向に注目が集まる。

メディアの利用状況 時系列推移