広告効果の減少を引き起こす過剰な広告出稿
広告におけるメディア利用の拡大鈍化に加え、広告業界全体が抱える問題として、消費者が日常的に接する広告の量が過剰な点が近年指摘されている。デジタルメディアにおいてはフリークエンシーに加えてビューアビリティの問題が顕著で、ユーザーのコンテンツ視聴を阻害して画面上に表示される広告の掲出形態に関しては、多くの生活者が不快と感じている。
NRIの調査結果からも、多くのユーザーが広告をスキップしている上に、スキップしていなくても広告をほぼ見ていないことがわかる。過剰な広告表示とユーザー体験を損なう掲出形態は、結果として広告の効果を低下させる原因となっている。

(画像左)動画広告のスキップ率(2023年9月)、
(画像右)動画広告(YouTube)が流れた際に取る行動
さらに、テレビCMに関しても同様に課題がある。スマホの普及とともに、テレビを見ながらスマホを操作する「ながら視聴」の割合が増加。2023年3月にNRIが調査したデータによれば、全世代で6割以上がテレビ画面を注視していないと回答していることもわかった。このような視聴習慣は、テレビCMの認知率を下げる一因となっており、広告主にとって大きな課題となっている。

テレビの「見方」(ながら見、ながら聞き)
当然、広告主にとっては「いかに広告を注視してもらえるか」が重要だ。そのため、広告主とメディアベンダーは消費者の関心を引きつける方法を考え出す必要がある。テレビでもデジタルでも効果的な解決策が見つかっていない現状では、自社の広告認知を向上させる手段の発見が課題となっている。
SNS広告への注目とOne to Oneマーケティングへの再挑戦
では、広告が溢れる現状において消費者からの関心を得る広告を作るにはどうしたらよいのか? 筆者は消費者の生活パターンや好みを反映したターゲティングを行い、彼らの興味やニーズに合致した内容の広告を、いかに不快感を与えることなく提供できるかがカギになると考えている。
この文脈で特に注目されるのがSNS広告だ。SNS広告は消費者の一人ひとりの趣味や好みを特定し、適した広告の表示が可能だ。加えて、動画広告と異なり、コンテンツの視聴体験を強制的に中断するような広告表示が行われない。趣味の情報収集の中に織り交ぜて、より自然な形で広告掲示ができることから受け入れられやすい広告の一つとなっている。

(画像左)不安に感じる広告の出稿形式、
(画像右)動画広告を不快に感じる理由
また、2023年度からは、One to Oneマーケティング(O2Oマーケティング)への関心が再燃してきたのも特徴的だ。この手法は、技術的な制約やデータ活用の難しさから、以前は限られたデジタルマーケティングの分野でしか実施できなかった。しかし、技術の革新によって多くの分野で可能になったことで、再度注目を集めているのだ。
O2Oが可能な媒体としては特に「リテールメディア」が注目を集めている。これまでのO2OマーケティングではOne to Oneと呼べるほど細分化された”マイクロセグメンテーション”を指していた。しかし、今後は顧客一人ひとりの購買データや行動データを活用する言葉通りのOnetoOneマーケティングにより、個々にカスタマイズされた広告配信の実施が期待されている。現時点では、まだまだ発展途上の分野だが、「どうすれば広告に注目してもらえるか」という問題への解答として、将来的に大きな注目を集める可能性がある。
ここまで見てきたように、コロナ禍を経て、消費者の興味は細分化されるようになった。その上、消費者が持つ興味の外側のものに対する注意・関心は極力そぎ落とされ、興味の内側に対して時間やエネルギーが効率的に注ぎ込まれるようになった。このように消費行動の「選択と集中」が進んだことは近年の特徴的な変化の一つだと著者は考える。だからこそ、SNS広告やリテールメディアのような対象に合わせてパーソナライズできるコミュニケーションの手段が、消費者の注意を引き、関心を持続させるためのカギになる。
次回はこれらのトレンドを踏まえ、今後の消費・メディア利用のトレンド予測とマーケティング活動において注意すべきポイントを解説する。