3年で売上500億、利益率55%を記録したネスレ日本のイノベーション
ネスレ日本が起こしたイノベーションの代表例が「ネスカフェ・アンバサダー」だ。これをNRPS法に当てはめると、次のようになる。
新しい現実:核家族化が進むとともに、家族消費から個人消費へ。家族団らんでテレビを見ながらコーヒーを飲むといったシーンが減ったのに加え、女性の社会進出にともない昼間に家でコーヒーを飲む人も減少し、家庭内でコーヒーの消費量が減少。
新しい顧客の問題:家庭内で一杯ずつコーヒーを入れるのは面倒。職場でも簡単に安価でおいしいコーヒーを飲みたい。
ソリューション:インスタントもレギュラーもシングルポーションで飲めるコーヒーマシン、オフィスでの利用を広げるためのネスカフェ・アンバサダー
ネスカフェ・アンバサダーは、自社製造の商品を自社で展開するために考えられたビジネスモデル。コーヒーマシンを無料で貸し出すかわりに、企業には専用のカートリッジを定期購入してもらい、その代金の回収はネスカフェ・アンバサダーに協力してもらう。最初は「人の善意に訴えてみよう」と北海道でテストしてから全国に展開したそうだ。
ネスカフェ・アンバサダーのサービスは、3年で50万人が利用。売上は500億、利益率は55%にも上った。小売りを介さないビジネスモデルゆえに可能になる利益率だ。高岡氏は「増益増収だけでは業績として認められない。外資系企業では利益率を毎年0.1%でも上げることが求められる。この時も売上より利益率重視だった」と話す。
見捨てられた日本で起きた「ジャパンミラクル」
マーケティングが見るべきは、社外の顧客だけではない。社内の全ての間接部門にとっても、マーケティングによるイノベーションは重要である。
高岡氏は、社長就任以降、人事領域のイノベーションも強力に進めていった。目的はホワイトカラーの生産性の劇的な向上、それによる利益率の向上だ。

たとえば、ネスレ日本ではコロナ禍前から全社員にリモートワークの権限を与えている。コロナ禍で社員の3分の1が出社しなくなり、使わなくなったオフィスを縮小すると、年間1億5,000万円から2億円の家賃を浮かせることが可能になった。また、新卒採用も入社式も止め、団塊世代の退職で500人の社員が自然減に。残業も上長の承認なしにはできないようにし、残業代のベースアップも行った。
結果、社長に就任してから退任までのおよそ10年間で年間平均-3%だった利益率は+2.6%になったという。この成長は「ジャパンミラクル」と呼ばれた。
「マーケターが新しい現実から新しい問題を解決する方法で、顧客が諦めているような難易度の高い問題を発見、解決することに挑戦してほしい。そうして日本を少しでも明るくしていただきたい」と聴講者を鼓舞し、高岡氏は講演を結んだ。