日本のスポーツスポンサーシップが広がらない2つの背景
平地:KONAMIやairweaveをはじめ、国内外様々な事業会社で長きにわたりスポーツスポンサーシップに携わってきた柏崎さんのような人材は日本国内だと珍しいです。また、スポーツスポンサーシップに取り組む企業の数もまだ伸びしろがあると感じています。
柏崎さんは、日本のスポーツスポンサーシップに関する現状をどのように捉えていますか。
柏崎:日本は欧米をはじめとした海外に比べると、スポーツスポンサーシップに関する取り組みや専門家の数が少ないのが現状ではないでしょうか。海外の場合、スポンサーシップ専門のチームが存在しているケースが多く、事業成長に有効なマーケティング施策の1つとして捉えられています。
一方日本の場合、スポンサーシップ専門のチームがある企業はごく一部で、スポンサーシップを行っていても広告会社などの支援企業に任せてしまうケースがほとんどです。
平地:日本と海外でそれだけの差が生まれてしまっているのはなぜでしょうか。
柏崎:大きく2つの背景があると考えています。1つは、マーケティングの捉え方が異なること。海外では、子どもたちやファミリー層に中長期的なアプローチを行いながらファンを増やしていくブランドマーケティングを中心にしています。一方国内の場合、多くの企業がマーケティング=セールスプロモーションと捉え、いかに目先の売上に貢献するかが重要なため、短期的な売上に貢献するのが難しそうなイメージのあるスポンサーシップは受け入れられにくいのではないでしょうか。
そして、もう1つの背景は日本のスポンサーシップに支援や協賛の意味合いが強くなっていることにあります。スポーツに関連したビジネスを行っている企業であれば、スポンサーシップに対して市民権を得られやすいでしょう。しかし、そうでない企業の多くはスポンサーシップを「スポーツチームの活動を支援するためにお金を払うもの」と捉え、ビジネスに貢献しないと思ってしまっている現状があります。
期待値を超える機会とステークホルダーとの深いエンゲージメントの創出
平地:スポンサーシップ=支援ではなく、ビジネスに貢献する立派な投資であることを理解してもらうために、柏崎さんから見たスポーツスポンサーシップの魅力について教えてください。
柏崎:スポーツスポンサーシップには2つの魅力があります。1つ目は「期待値を超える機会」が生まれやすいことです。一般的に欧米ビジネスや学問的には「Return on Opportunity(ROO)」の概念が常識です。一般的なホスピタリティやネットワーキングの域を超えて、普段は会えない人に会える。フォーマルな会議室とはまた違ったリラックスや白熱した環境や雰囲気に加え、世界記録が出た瞬間などの名場面はその時、その場所でしか共有できない機会となり、その時間の価値を大きく高めます。
スポンサーとして携われば、アスリートのパフォーマンスや天候以外の部分はコントロールできる幅が増え、ビジネスが生まれる確率を高めることができます。私も国内外の複数の現場経験を通して経験してきましたし、現在、MANAGEMENT-Kで様々な企業をサポートさせていただく際も、スポンサーシップの設計には組み込む大事な部分です。
2つ目は「ステークホルダーとの深いエンゲージメント」です。近年はファンマーケティングが手法の1つとして注目されていますが、直接的な広告とは異なり、スポンサーをする対象を取り巻く地域やファンへの好意的な認知や共感が得られやすくなります。スポンサーをすることで、企業もステークホルダーから応援されるという構図を作れるのは「スポーツ」というコンテンツの特徴かもしれませんね。
平地:どちらの魅力もとても重要だと思います。まず、期待値を超える機会に関しては、世界記録や大金星など人の感情が大きく動く瞬間に立ち会うと、会場内はとんでもない一体感に包まれるため、その場にいた人の記憶に強く残ります。その中でスポンサーシップをしていると、ブランドが想起されやすくなるので効果的です。
ファンとのつながりに関しても、長期的にファンやスポンサーしているチーム・選手とコミュニケーションをとることで企業の好感度は高まります。
デジタルマーケティングの浸透で投資対効果が見えやすくなった分、マーケターの方は短期的な成果を求めてしまいがちです。しかし、長期的なブランディングを考えるとスポンサーシップを行うことには大きなメリットがありますし、そこに期待値を超える機会が重なれば、経営にも大きなインパクトを残すことができます。