企業の想定していない商品価値に突破口がある可能性も
では、ブランドにとって、「自分的な新・商品価値の発見」の意義とは何でしょうか? 我々は、大きく2つの意義があると考えています。
1つは「パーソナライズ効果」です。消費者における「自分的な新・自分的商品価値」をブランドが発見することで、消費者の多様化する思考や価値観に対応できますし、歴史の長い商品やサービスも時代の変化に対応し、ブランドを活性化することができます。
もう1つは、「バリューの増幅」です。自分にとっての価値を発見させることで独自価値として提示することができ、そのバリューを収集することでブランドの独自価値を増やすことができます。たとえば、競合ブランドに対して価値が差別化できていない、歴史・技術・スペックなどに特徴はあるが価値が伝わっていない、長寿商品を現代的価値観に合わせリフレッシュしたい、といった商品やサービスにとって有効な手段だといえるでしょう。
次に、この構図について他の事例も見てみたいと思います。

Bさんは、「心が動いた消費」として、「炭酸対応魔法瓶水筒」を購入、その体験によって「外出時にも冷えたビールが飲める、花見や野外での食事が楽しくなった」と回答しています。この事例もまた、「炭酸対応」という新機能がドライバーとなって、ビールの新しい飲用シーンが見つかり、既存の魔法瓶やビール単体では提供できない新たな価値へと拡張しています。
この消費によって、Bさんの中では「心穏やかな休日の過ごし方」という生活の新文脈が形成され、2023年中にしたいこととして「自分なりの創意工夫をしたDIYをしたい」という全く別ジャンルの消費が新たに生まれたようです。
別の事例で、Cさんは「心が動く消費」として「ヴィーガンのドーナツ」を挙げています。「子供が卵と乳のアレルギーで食べたことがなかったが、新しいヴィーガンドーナツ屋を見つけ、初めて食べて、子供がとても喜んでくれたのが嬉しくて値段以上の感動があった」と回答。家族との関係が深まったという良い変化があり、リピート意向を示しています。
「ヴィーガン」といえば、最近のトレンドという印象が強いですが、Cさんはアレルギーで悩んでいる自分の子供も食べられる素材のお菓子、という独自文脈で消費をしています。それまでは自分(家族)にとってマイナスだった要素が払しょくされプラスに転換したことで、お菓子の選択肢が広がったという機能価値、さらに子供の喜びという情緒価値を得たことも、Cさんにとっての商品価値となったのでしょう。
さらに「2023年中にしたいこと」では、「子供が今までより手がかからなくなったので、洋服や化粧品など買いたい物ややりたい事が沢山ある」と回答。子供の手が離れた、というタイミングをきっかけに、子供から自分への投資の消費へと、欲望も変化したようです。このようにライフスタイル変化のタイミングで生まれる欲望を捉えることで、それまでとは全く違う消費を喚起することができるかもしれません。
消費者の能動的な消費を促し、エンゲージメントを築くために
以上3つの事例からもわかるように、自分なりの商品の使い方や価値を発見できれば、消費者の中でより能動的に次の消費意欲が生まれることがわかります。これが本当の意味での消費者とのエンゲージメントの在り方かもしれません。
そのような消費を起こすためには、一見遠回りにみえても、自分にとっての利用価値を発見させる「仕掛け」が鍵となってきそうです。ストーリーを知る学びの場をつくる、手にとりやすくするスペック表示を工夫するなど、消費者が自分文脈をつくるための商品提示の手法は色々と考えられそうです。
先のほうで5つの構図をご提示しましたが、紙幅の関係で今回詳細にご説明できるのは1構図のみとなりました。この構図に当てはまらずとも他の4つの構図またはそれ以外のパターンの中に、読者諸兄のマーケティング課題に当てはまるものがきっとあるはずです。どの構図を当てはめてコミュニケーションやキャンペーンを設計したらよいのかを検討し、消費者とより持続的な関係性をつくるためのヒントとしていただければ嬉しく思います。
・タイトル:第5回 電通「心が動く消費調査」
・調査目的:変化し続ける社会環境により可視化されにくくなりつつある消費者意識を消費者の欲望視点から分析し、今後の日本の消費社会を読み解く
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:20~74歳
・サンプル数:3,000サンプル(20〜70代の6区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け。70代は70-74歳まで)
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:
パイロット調査:2021年5月18~21日
第1回調査 2021年9月3~6日
第2回調査 2021年12月16~19日
第3回調査 2022年5月12~15日
第4回調査 2022年11月2~7日
第5回調査 2023年5月10 ~15日
・調査機関:株式会社電通マクロミルインサイト