巨額資金の行き先は「巨大動力エネルギーの確保」
その巨額資金だが、まさか生成AIアプリのSoraだけに投下されるはずはない。チップの開発やクラウドなどの先に、それらを動かし続ける「巨大動力エネルギーの確保」の課題がある。
OpenAIも声明で「AIとこれに依存する他産業にとって重要な半導体、エネルギー、データセンターに関するインフラと供給網の世界的な拡大」に触れている。蓄電・バッテリー・レアメタルのような補完・代替程度の次元ではなく、不安定で微弱な自然エネルギーでもなく、莫大なる電力をごっそり“作り続ける”ための基盤確保が第一の必須項目にある。
繰り広げられるパワーゲームという名のチーム作り
ロシア・ウクライナ・中国などの世界情勢はいったん横に置き、今回の巨額資金調達のためにサム・アルトマン氏は2024年1~2月の間、産油国のUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビにて、シェイク・タフヌーン・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン氏(UAE大統領の親族で同国の安全保障トップ)など複数の人物と会談している。
このパワーゲームの延長で、ソフトバンクグループの孫正義氏やファウンドリ最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の代表、サムスンの幹部らともベンチャー資金について話し合ったとされる。世界的に大きな資金力と政治を含めたチーム作りが進んでいる様子がうかがえる。
メディアによる情報の真偽はさておき、少なくとも現時点での示唆は、OpenAIやサム・アルトマン氏、Microsoftが投げかけているAIに関する事業は一社のスタートアップ(非営利団体)や二社提携などの次元に収まらないということ。既に世界の主要経済国の債務や巨大な政府系ファンドよりも大きい桁の資金調達額が語られ始めており、高度な政治事項となっている。
AIの普及にともないクリエイティブ版権やAIの倫理制御レベルに関心が寄るが、その次元を超えた「反トラスト法違反や連邦取引委員会(FTC)」や「国家安全保障上の概念(中東に半導体を輸出するのかなど)」をも超える事項の想定が、1,000兆円超えの世界だ。
AI事業者と名乗る巨大7企業(GAFAM、NVIDIA、Tesla)は、「“チップ”~AI~クラウド~電力~通信~端末」までを自社オリジナルで確保する資産投下量を持つ。これらを強靭な鍋底として持ちつつ、生成AIのようなアプリを載せて、現時点では想像もつかない「まったく関係ない産業」に向けて投資し続けている。読者の自社事業をこの垂直統合のエコシステムにどう組み込むのか。
OpenAIのSora発表の話題は、誰が(どの企業が、どの国が)何を保有しているかのパズルと考えて、「我が社も生成AI利用を手掛けました」という独力に閉じられない、チーム作りへの気づきとしたい。
