生産者がきちんと儲かる仕組みを作りたい
――産直通販サイト「食べチョク」は青果販売の当たり前を変えたと感じています。2024年2月には会員数100万人を突破しましたね。本日はそんな食べチョクのこれまでの歩みや、これから目指すことなどをうかがいたいと思います。まず、このビジネスをはじめた背景を教えてください。
秋元:実家が農業を営んでいたのですが、私が中学生の頃に廃業したんです。背景には、当時は小さな規模の生産者が野菜を高値で売れる仕組みがほとんどなかったことがあります。生産者さんがきちんと収益を得られるようにしたい、それが出発点です。
価格設定は高めでも、食への関心の高い人から支持されているファーマーズマーケットはあります。そのような仕組みをオンライン上で作りたいと考えました。オンラインなら、リアルイベントへの参加が難しい地方の生産者さんでも、こだわりを持って作った食材を東京の生活者に購入してもらえると思ったのです。
現在、生産者さんの登録数は約9,600軒。生産者1軒あたりの月間最高売上は、2021年の前回調査時と比較して全カテゴリーで更新されています。
しかし、2017年のローンチから数年は苦戦の連続でした。スーパーや朝市、ECなど野菜を購入する場が既に複数ある中で、生活者に食べチョクを選んでもらうという理由付けをどう設定するかが課題でした。
また、食べチョクは「お客様が生産者さんから直接食材を購入できる」点が大きな魅力なので、そこをどう伝えていくかも課題でした。
「生産者応援」での成長は偶然じゃない、戦略と投資
秋元:流れが大きく変わったのは2020年。コロナ禍がきっかけです。販路を失った生産者さんを応援する動きが世に生まれ、その手段のひとつとして「食べチョク」に興味を持ってくださる方が増えたんです。
ようやくサービスコンセプトと認知が紐付き始めたと感じました。そのタイミングで、より一層私自身のメディア露出を増やしました。私が創業ストーリーを伝えることで、生産者さんから直接食材を購入することの意味を伝えたんです。PRや広告を打つより、こちらのほうがサービス利用の促進になることがわかったからです。
さらに、この時期にテレビCMも展開しました。マーケティングはSNS広告を中心にしていたので、かなり勝負に出ました。
――出稿の判断は応援消費の流れを感じたからですか?
秋元:それもありますが、広告効果を最大化できるのは今しかないと考えたからです。
時世柄、広告枠の価格が比較的手を出しやすくなっていました。しかも在宅でテレビを見ている人も多いのでCMを届けやすいし、ECも利用しやすい。さらに当時は毎週のようにテレビで取り上げていただいていたので、消費者との接点がある程度生まれている状況でした。
加えてテレビCMは接触回数が重要ですが、当社の予算にも限りがあります。そこを補う形で私自身が接点になれる。こんなに条件が揃うタイミングが次にいつ来るかわかりません。2020年4月に出稿を決め、7月に実施した結果、大きな反響を得られました。
――コロナ禍で環境が変わったタイミングでメディア露出を増やした企業は、他にもたくさんあったと思います。でも、そこから伸びなかった企業もありますよね。食べチョクが伸びた要因はどこにあると考えますか?
秋元:2つあると思います。システム面とテレビCMの役割の定義です。
創業時からインフラ投資にはかなり力を入れており、基準をサーバーが「落ちない」でなく「遅くならない」にしています。というのも、前職(ディー・エヌ・エー)でゲーム事業に携わっていたのですが、ユーザーがゲームを辞める理由で多いのは「ロード時間の長さ」なんです。スピードにはこだわってきました。
結果として、テレビ紹介後に急増したトラフィックにも耐えられました。当たり前だと思われるかもしれませんが、受け皿がしっかりしているかは差別化につながると思います。
また、テレビCMのメッセージとサイトで伝えるメッセージを明確に分けたことも大きいと思います。初めての出稿だと企業の思いを伝えたくなるものですが、テレビCMは食べチョクへの訪問を促すものと割り切ってサービスの便益だけを訴求しました。そして、生産者さんや食べチョクの思いを伝えるコンテンツはサービスサイト側に用意したんです。
――まずは興味を持ってもらい行動を促し、その先で理解を深めてもらう戦略だったんですね。そして、初めて食べチョクを知った人がストレスなくサービスを使えるようにした。コロナ禍で複数の「たまたま」が重なったことが躍進の背景にありつつも、それだけではなかったのだとあらためて感じます。
秋元:ありがとうございます。このように「良い食材を直接生産者さんから購入したい」人たちへアプローチした結果、初期ターゲットに関してはかなりPMFしたと感じるようになりました。しかし、他の部分にもアプローチしていかないと、ある程度のサービスで終わってしまうものです。お客様が増えるとニーズも多様化します。昨年からはサイト上のコンテンツを増やし「純粋に食の関心が高くて美味しいものを探している人」たちに向けてアプローチしています。