リキッド消費に関する、誤った“極端な”認識
久保田:もう1つ、リキッド消費を正しく理解するために大切なポイントとして、「市場全体がリキッド消費化するわけではないし、すべての人がリキッド消費者になるわけでもない」ということをご説明しようと思います。
Bardhi教授とEckhardt教授は、伝統的な消費(物を買い、所有し、比較的長い時間をかけて使用する消費)を「ソリッド消費」と言っています。リキッド(液体)の反対なので、ソリッド(個体)というわけですね。リキッド消費とソリッド消費は対をなす概念で、リキッド~ソリッドというスペクトラム(連続体)の両極として概念化されます。
図をご覧いただくとわかるように、リキッド消費とソリッド消費は明確に二分できるものではありません。捉え方としては、「伝統的なソリッド消費に加えてリキッド消費という新しいタイプの消費が台頭してきた」とするべきです。ソリッド消費はこれからも残るでしょうし、ソリッドとリキッドの中間的な消費もあるでしょう。ですから、「これまでとはまったく違う市場が生まれた」「消費のスタイルが180度変わった」というようなセンセーショナルな表現は適切ではありません。

MarkeZine編集部:どのような背景があって、リキッド消費が台頭するようになってきたのでしょうか?
久保田:「その場その場に応じたものを欲しがること」「モノではなくそこから得られる価値にお金を払っていること」などを考えるとわかるように、リキッド消費の指摘する内容は普通のことです。リキッド消費の根底には“人間の本質的な欲求”があると考えています。
その一方で、リキッド消費が台頭することになった「きっかけ」はあるように思います。

1つは、2000年代に入り社会的な価値観や制度が変化してきたことです。たとえば、自動車を持つことがステータスだった時代から、必要な時だけ借りるほうがスマートだといわれる時代になりました。
もう1つは、2010年代に入りデジタル技術が急激に進展したことです。欲しいものを、欲しい時に、労力をかけずに手に入れられるようになった背景には、デジタル技術の進展、特にインターネットの浸透とスマートフォンに代表されるパーソナル・デバイスの普及があります。
これら2つの環境変化をきっかけに、“人間の本質的な欲求”が実現可能となり、リキッド消費という現象として私たちの目の前に示されるようになったというのが、私の見解です。
MarkeZine編集部:その背景を踏まえると、やはり若い世代のほうがリキッド消費の傾向が強いのでしょうか?
久保田:若年者のほうがリキッド傾向が強いというデータは、たしかにあります。ただ、これが「世代」によるものなのか、「年齢」によるものなのかはわかりません。
つまり、小さい頃からデジタル機器に触れてきたデジタルネイティブ世代としての影響が強い可能性もあれば、単純に「若さ」が影響している(=今の若年者も50代60代になるとリキッド消費の傾向が弱くなる)可能性もありますよね。なぜ若年者のほうがリキッド傾向が強いのかの理由はわかりません。きっと、あと50年くらいして調査したらわかるでしょうね(笑)。