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小さな会社、大きな仕掛け

ハレの日のニーズだけでは産業が衰退する 着物リメイクブランド「ケニマリ」創業者のピュアな商い

着物文化の存続に利己は要らない

 新しいブランドを立ち上げるだけでも胆力を要するが、歴史の長い伝統文化を扱うとなれば尚更である。特に配慮が求められるポイントはどこにあるのだろうか。

着物の帯をリメイクしたオリジナル企画のバッグ「小筒型」
着物の帯をリメイクしたオリジナル企画のバッグ「小筒型」

「歴史的な背景を知ることと、文脈を守ることです。たとえば、着物には振袖や留袖などのフォーマルなものから、小紋などのカジュアルなものまで、複数の装いが存在します。ケニマリでは主にカジュアルなシャツやスカートを扱っていますが、これらは全て小紋を用いて制作しています。小紋は普段着として扱われていた着物ですから、現代においても普段着に転用可能なのです。私が外国籍だからという理由だけでなく、文化そのものにリスペクトを払うという意味でも、背景や文脈への理解は絶対に欠かせません」(座波さん)

 座波さんは、歴史的な背景や文脈を損なうことなく絶妙なバランスで現代の普段着に着物のエッセンスを落とし込んでいる。小紋は総柄で裁断がしやすく、普段着に転用しやすいそうだ。ケニマリの商品は、一般の生活者はもちろん着物産業に携わる人々にとっても受け入れやすいプロダクトと言えるだろう。

 新たなブランドの立ち上げが着物産業そのものの底上げになり得ることはわかった。ただ、それは座波さん自身のやりたいことだったのだろうか。

「着物産業の底上げと文化の継承を目的とする以上『したいことをする』『儲かることをする』といった利己的な動機は御法度だと考えていました。自分のしたいことは一旦置いておいて、着物産業のテコ入れに足る規模の商売を生まなければ、工場が守られることはなく、技術は継承されませんから」(座波さん)

三越の着物フロアに若者が殺到

 私は今回の取材を通じて、改めて「商売とは一体何だろうか」と考えさせられた。安く買って高く売ること? 大きな売上を生むこと? 多くの利益を残すこと? 恐らく全てに一理はあるのだが、数字をつくることを大上段に置いてしまったビジネスは、大切なものを見失っている可能性がある。

 なぜなら商売とは、人の必要を満たすことにほかならないからだ。人の必要を満たし、その対価として金銭を受け取る。金銭を得るために商売をするのではない。順序が逆では長続きしないことを、私は嫌というほど目の当たりにしてきた。

 日本の着物文化を後世に残さんとするたった一人の思いから始まったkeniamarilia。現在は着物の権威として名高い伊勢丹や三越などからポップアップストアの出店依頼を受けるなど、引っ張りだことなっている。いずれのポップアップストアでも日本中から顧客が集まり、全ての商品が完売するほどの盛況ぶりだ。三越ではポップアップストアの出店場所として着物フロアの一角をあてがわれたが、出店期間中は着物フロアに若者が押し寄せたことで大きな話題を呼んだ。

 これは筆者の憶測でしかない上、はっきりとした答えが出ているわけでもないが、伝統文化を後世へと継承するために必要なことは商用化なのかもしれない。少なくとも商用化は有効な手段となり得るだろう。座波さんの挑戦はまだ始まったばかりだ。

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この記事の著者

阿部 圭司(アベ ケイジ)

アナグラム株式会社 代表取締役/フィードフォースグループ株式会社 取締役。大手アパレルメーカーを経て運用型広告の世界へ。リスティング広告やFacebook広告を筆頭とする運用型広告の領域が得意なマーケティング支援会社アナグラムを創業。その後、フィードフォースグループにグループジョイン後、現役職。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/06/17 12:48 https://markezine.jp/article/detail/45692

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