「多様的」かつ「多面的」な価値観・ニーズの変化をいかに捉えるか
MarkeZine編集部:前編では「Accenture Life Trends 2024」の全体像を解説いただきました。詳しくは前編をご覧いただければと思いますが、MarkeZine読者へ要点をまとめると、次のようになります。後編では、これを実現するために求められる具体的なアクションについて伺っていきます。
生成AIを筆頭にテクノロジーが猛スピードで進化していくのにともなって、“良くも悪くも”効率化が進んでいる。また、不安定な社会情勢も絡み合って「実は顧客体験が損なわれていた」というような事態も起きており、企業やブランドは今一度、顧客体験の在り方を見直さなければならない。さらに、従来の既成概念では予測不可能な顧客の行動や価値観を理解し、一人ひとりに最適な形で商品やサービスを提供していくことも求められる。
木原:「Accenture Life Trends 2024」をご覧いただくと、生活者や社会の大きな変わりようがよくわかると思います。企業側がこのままこの変化に対応できなければ、顧客との関係性はますます遠いものになってしまうでしょう。
前編でもお話ししましたが、これまで当たり前とされてきた、大学進学、就職、結婚、家を買うなどといった人生のマイルストーンが、必ずしも重視されなくなってきました。こうした人生観の変化により、人々の消費行動や価値観は大きく変わりつつあります。私たちはこうした顧客の変化を「十人十色」ではなくて「一人十色」であると捉えています。というのも、価値観やニーズは、一人の人間の中でも、その瞬間瞬間で変わっていきますよね。私自身もビジネスパーソンとしてクライアントに向き合っている時、上司や部下と向き合っている時、家庭人として家族と向き合っている時で、思考や価値観は全く異なります。
企業がまず取り組むべきは、そうした一人の顧客の中で揺れ動く“多面的な”価値観やニーズの変化をしっかり捉えていくことだと考えます。
MarkeZine編集部:パーソナライゼーションのさらに先を行くようなイメージでしょうか。実現のハードルが高そうです。
木原:そうですね。ただ、現在、企業はデジタル上で顧客との接点を様々持つことができていますし、アナリティクスの技術も上がっていますから、「一人十色」を把握するための分析を行うのは十分に可能だと思います。技術的にはできるようになっている――つまり、行き着くは、やるかやらないかの意思決定にかかってくると言えます。
「一人十色」に応えるには「AI活用」が不可欠だけれど…
MarkeZine編集部:「一人十色」の価値観・ニーズの変化を捉えた上で、それに柔軟に対応するにはどのような方法が考えられるでしょうか?
木原:従来とは違う人生設計や、多様で多面的な価値観を持つ人のための商品やサービスを設計することももちろん必要になってきますが、マーケティング・プロモーションの観点からは、その多様性・多面性に応じたパーソナライズに生成AIを活用することが喫緊の課題になってくると思います。一人ひとりにあわせたコンテンツ・クリエイティブの制作も、生成AIにより実現可能になっていますからね。
ただし、「生成AIを使うと標準的なクオリティのクリエイティブは増えるが、他と差別化できるようなキラーコンテンツが増えるわけではない」という声も聞きます。異論もあるでしょうが、私は生成AIとは究極の模倣だと思っています。AIが生成したものに対して、人間がどのような新しい価値を与えるのかまで考えなければ、コンテンツの差別化ができずに同質化が進んでしまうでしょう。
多様化に対応すると「効率化」が問われ、「同質化」といった問題が出てくる。こうした矛盾をどう乗り越えていくのかも重要なポイントだと考えます。