プラスワン視聴でコンテンツに触れてもらう
――スマホでいろいろなコンテンツを見られる今、TVerではテレビコンテンツを見てもらうためにどんな取り組みをされていますか?
薄井:これは10代に限ったアプローチではないのですが、「プラスワン視聴」を促進しています。ユーザーが1番組を見た後に他の番組にも興味を持って視聴してもらうために、UI/UXの改善や特集の設計を行ってきました。実際にユーザー一人当たりの視聴数は伸びています。
野田:プラスワン視聴の場合、ドラマを見に来た人はその後もドラマのジャンルを見続けるんですか?
薄井:もちろんドラマだけを見るドラマ好きの視聴者もいますが、違うジャンルをまたいで視聴する方もそれなりにいるのがおもしろいところです。ですから、ドラマやバラエティといったジャンル別タブを用意するとともに、特集はジャンルを横断する形で組むこともあります。

野田:若い世代はネットを通して自分の興味を深掘りすることに積極的です。特集という切り口で、多面的に興味を掘り下げやすくしてくれると、10代にとって「頼れる」メディアになっていけると思いますね。
薄井:なので、今はジャンルの拡張にも注力しています。TVerは「ドラマとバラエティの見逃し配信サービス」という印象が強いと思いますが、アニメやスポーツといったコンテンツもある。現在はリアルタイムで、地上波と同時に配信する番組もあります。配信コンテンツの拡張は進めていきたいですね。
野田:ユーザーからの要望もありますか?
薄井:たくさんいただいています。以前は「これをもう一度見たい」といったアーカイブへの要望が多かったのですが、最近は地上波放送が決まった時点で「TVerでも配信してください」といった放送前の要望が増えてきました。ローカル局の番組を他の地域で見たいので、配信してほしいという声も多いです。
若者のタイパ重視は本当? 時間のバリューを上げるには
――メディア環境研究所の調査を見ていると、10代を中心に自分の興味のあることを効率よく知りたい「タイパ重視」の一方で、SNSのフィードをリフレッシュして新しいことを知りたいという欲求もあるように感じます。コンテンツを届ける時にどんな工夫が必要だとお考えですか?
野田:必ずしもタイパだけを重視しているわけではないと思います。思考停止してぼーっとタイムラインを眺める時間もある。効率的に興味を押さえるだけでなく、「いい時間を過ごせる」メディアが求められているのではないでしょうか。どう時間のバリューを上げるかが鍵ですね。
薄井:いい時間を過ごしてもらうという視点では、テレビコンテンツは手のかかったクオリティの高い番組が揃っていて、魅力を感じてもらいやすいと思います。一方でタイパの視点では、TVerでは倍速再生もよく利用されています。若い世代の、特に女性の利用率が高い印象です。
野田:倍速再生は効率的にキャッチアップしたいという理由だけでなく、好きなシーンだけ繰り返し見たいために、そのシーンまで倍速で流すパターンもあるようです。「このシーンのこの台詞を聞きたい」「推しの出演部分を繰り返し見たい」といったニーズがあります。まさに「自分の時間の価値が上がる」体験ですね。また、ドラマを朝の支度をする30分間で見るといった「生活の尺」に合わせた視聴スタイルも考えられます。
薄井:お気に入り登録の機能もコンテンツを届ける際に活用できると考えています。TVerのお気に入り登録では番組名だけでなく、タレント名や特集も登録できます。登録した内容に応じて自分の好きなコンテンツが自然と溜まっていきます。

将来的には「お気に入り登録しているものを公開できる機能」といった展開もできるのではないかと考えています。自分のお気に入り番組などをSNSでシェアできるとおもしろいのではないかと。
野田:いいと思います。若い世代への調査で、自分の憧れの人がフォローしているアカウントや、その人が参考にしている情報源を自分も真似したいという情報行動が見えてきたんです。
特にテレビ番組は人と共有して楽しい話題になりやすい点も大きいと思います。自分の本棚を人に見せるのは抵抗があっても、テレビはみんなが見ることが前提にあるので「昨日あの番組見た?」と気軽に話しやすいんですよね。
薄井:そういったコミュニケーションを生み出せることに、TVerの意義があると思うんです。単にテレビ番組をインターネット上で見られるだけでなく、視聴者たちのコミュニケーションの一つになる。それが、テレビ番組がインターネットに置かれている意味ではないかと思います。