店頭での「自然な声かけ」や「偶然の出会い」をECで再現
MarkeZine: 開発にあたり、特に重視されたことを教えてください。
皆瀬:弊社が自社開発する「Rtoaster」は提供開始から18年の歴史があることから、「顧客要望」をもとにした機能開発プロセスに則っていますが、今回はエンジニアとPdMが一体となり、要素技術から着想する「シーズドリブン型」で構想しました。細かなプロトタイピングと実証実験を重ね、「販売員が商品知識をさらっと伝えるような、“人間らしいコトバ”」での対話風機能を作り、タイトル文に実装しました。また、ターゲット・ポジショニングとして意識したのは「チャットボットのように会話が階層深く・重くならず、かといってレコメンドのような無機質に軽すぎない」、まさに“ちょうどよい対話”を目指しました。
今回の機能開発において、実は裏側では複雑な技術を駆使しているのですが、開発メンバーたちが「難しい技術をわかりやすいアウトプットにする」というコンセプトに特に拘ってくれました。「百貨店の販売員の自然な声掛け」「ウィンドウショッピングの偶発的な発見」、これらをEC上で再現するには、従来のような一方通行な「システマティックな情報提示」から脱却することを製販一体で検討したことが今回の機能開発のポイントです。

消費者が求めているのは「商品そのもの」ではなく「自分にとっての“発見”」
MarkeZine:既に多くの導入、引き合いがあると伺っていますが、実際の導入・検討企業の反応はいかがでしょうか?
皆瀬:先日あるカンファレンスで登壇した際、とあるEC企業の方がご挨拶に来てくださり、「数年前、今日発表されたような取り組みを自社開発しようとしていたが挫折していた。Rtoaster GenAIは、まさに目指していたもの!」と強く共感を示され、即導入を希望されました。私たちが掲げた「ちょうどよい対話UX」は、マーケターの潜在ニーズとしてあったんだ、ということが現場の原体験として実感できました。
中田:実際、Rtoasterを導入している百貨店のECサイトで実施したPoCでは、導入後すぐにCVRが倍増し、「百貨店の店舗スタッフがこのように接客しているのに、それをECに組み込もうとしてこなかったのが不思議なくらいだ」と先方社内の上層部から高評価を得たとの声もありました。
皆瀬:導入が進むにつれて実感するのは、消費者が売り場に求めているのは「商品そのもの」ではなく「自分にとっての“発見”」だということです。その共通認識が登壇後の議論の場でもそうですし、商談の機会を重ねるたびに、マーケター間で確実に広がってきている実感があります。
中田:あわせて、検索ログデータの分析を進める中で、「事業会社がRtoaster GenAIを採用する本当の価値」も見えてきました。
検索ログデータを分析したところ、約60%のユーザーが検索窓に“情緒的なシーン”を入力している、ということがわかりました。たとえば「義父への還暦祝いを探している」や「取引先へのお詫びの手土産を何にしようか」などです。すなわち、これらは、ニーズやウォンツの手前にある「シーズ(状況や気持ち)」の理解であり、顧客理解を深めるにあたっての「興味嗜好データ」としての価値が非常に高いということが見えてきています。百貨店や小売店の「売り場」で行われている“当たり前の接客”がデータ化できる、という新たな発見です。