最もよく買うリピーターの心理をつかむ
MZ:新規顧客と、継続している顧客が感じる価値も違うのですか?
西口:そうですね、そこも分けて考える必要があると思います。同じ価値を見出すこともあるでしょうが、前述のように使ってみたら期待と違う点が気に入ったとか、使ううちに変わってくることはよくあります。
それを頭に入れておかないと、新規顧客向けの訴求なのにリピート促進もできているように勘違いしたりするので、注意したいです。
MZ:新規顧客、継続している顧客、また離反した顧客などを区別して捉えるということですね。
西口:はい。それぞれをWHOと捉え、N1分析のインタビューなどを通して求められている便益と独自性を深掘りし、提案していきます。
この中で最も重視すべきなのが、プロダクトの売り上げを支えている、継続している顧客です。その方々が感じている便益と独自性を、さらに強化していきます。
ただしその方々も、ずっと継続してくれるとは限りません。顧客は、競合との比較を含めて常に「価値の再評価」を行っているので、いつ離反してしまうかはわからないのです。なので、初回や2、3回目など購入歴がまだ浅い顧客や、離反から復帰した顧客の心理を捉えることも大切です。顧客は固定ではなく、その心理は変化し続け、その結果の購買行動も変わり続けているのです。
マーケティングでやるべきことは、実はシンプル
MZ:具体的にどのようなことを聞けば、その心理をつかめますか?
西口:買い始めたばかり、あるいは購入の頻度が低い一般的な顧客に対しては、毎月のように継続している顧客とのギャップをまず探ります。何を評価しているのかの違いや、重要視している便益・特徴への温度差などですね。
それらを発見できたら、どうしたらそのギャップを埋められるのかを考えていきます。また離反から復帰した顧客からは、商品購入をやめたきっかけと復帰した理由を聞いていくと、離反した方の中でどんな方が復帰しやすいかのヒントが得られます。
MZ:離反した顧客も、一様ではないんですね。
西口:はい、離反した理由や状況は様々なので、「復帰しやすい人」と「復帰しにくい人」がいます。その違いはどこにあるのかを探り、一方で既に他のプロダクトに移ってしまった方からは「何をきっかけに、どの競合や代替品にスイッチしたか」を確認して、そのスイッチした心理や理由を推察します。
スイッチした理由を直接聞いても、本当の理由は見つかりにくいので、顧客から得られる言葉や情報から洞察することが重要です。そして、今までとは違う便益と独自性の提案ができるか、再び利用してもらうためには何が必要かを考えていきます。

MZ:つまり事業の成長には、新規顧客と既存顧客をそれぞれ維持・拡大しながら、離反の防止や離反からの復帰にも注力していくのですね。かつ、それぞれ心理が違うから、丁寧にWHOとWHATを掘り下げて価値を感じ続けていただく……、とても一度にできそうにないですが、全体像はわかった気がします。
西口:大丈夫です。初学者の方がすべて行えるものではなく、まずは全体像を俯瞰することが大事です。マーケティングがすべきは究極的には、(1)新規顧客の拡大、(2)その継続顧客化、(3)継続顧客の維持、(4)離反顧客の最小化、(5)離反顧客の復帰、それぞれに対する継続的な便益と独自性の提案であると覚えておいてください。
このように顧客の動きを軸に考えていけば、マーケティングは、実は非常にシンプルなのです。
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