「正直、成果しかなかった」売り場の改革
──今回の売り場改革の推進による成果を教えてください。
中村:正直、成果しかなかったと思っています。というのは今まで、お客様の手触り感を含め、細かく検証できる術を持っていなかったからです。マクロで売上結果は見ていましたが、コンテンツを配信したら、どう売上が変化したかがわかる環境を創出できたことが大きいです。
結果、実施した商品の売上は変化しています。売り場改革を行ったことがマイナスになったことはほとんどなく、売上にもしっかり寄与しています。今やってることは間違いではないことに革新は持てましたが、やりようによっては上げられる余地はあると思ってます。
このあたりは、やればやるほどデータがたまって、そのデータを用いることで精度が上がっていく部分ですので、引き続き実施していきたいと思っています。
──流通企業と連携したAIカメラの導入を各所で展開していくにあたり、他にも着目していたことはありますか。
中村:同時に進めていたことは、商品が並んでいる棚の商品販売スピードですね。欠品が起きてしまうと、結果的に補充ができずに、売上に対する機会損失となってしまうからです。
根本的な課題は、どの流通企業様もお悩みですが、店頭のオペレーションをするための人手の確保が非常に難しくなっていることにあります。商品の補充なども、以前のようにきめ細かく実施することが難しくなってきています。
そこで流通企業様と一緒に、欠品・補充状況の可視化に取り組みました。本当に欠品が起きていないのか、欠品が起きる商品が減るスピードがどれぐらいなのかを、AIカメラを通じて売り場を定点観測しました。
マス広告やWeb広告などの空中戦、そしてリアルへつなぐ
──サントリーが売り場改革を行う上で、重視している点がありましたら、お教えください。
中村:テレビCMを中心としたマスコミュニケーションでお客様の認知とることはもちろん重要です。しかし今は、買い物に行くまでの時間の情報接触量が多いので、それだけでは不十分です。Web広告を活用し、購買データをもとにセグメントを選定し、届けます。
デジタルの空中戦は、小回りが利くわけですが、実はそれだけでは購買につながっていきません。スーパーやコンビニエンスストアなど、リアルな売り場では「的確に商品を認識した時に、わかりやすくそこにあるか」という、空中戦からリアルに戻していくことで売上が大きく変化します。
色々な要素を統合しマーケティングすることで、お客様の認識を分断させることなくシームレスにつないでいくことが重要だと考えています。

──サントリーでは顧客のロイヤルティーの高さをどのように測っていますか。
中村:色々な調査方法がありますが、結果的にバイアスがかかってしまうと的確な示唆は得られないと考えています。何のバイアスもかからない無意識な状態だからこそ、その人の本来の行動が見えてくると思っています。
我々は「胃袋シェア」と呼んでいますが、あるお客様の購入データの中でお酒がどれくらいの割合を占めていて、その中でサントリーのブランドをどれくらい選んでくださっているか。これらが結果的にロイヤルティーにつながっていくと思っています。したがって日々の購買内容、ID-POSを時系列で見ていくことでロイヤルティーの高さを測っています。
──本連載では「リテールのマーケティングトレンド」を特集テーマとしておいています。サントリーが、今後取り組みたいチャレンジをお聞かせください。
中村:今進めている取り組みは、日本の流通業界のごく一部で行われていることです。我々としてはお客様を起点としたマーケティングを高度化し、流通業に携わる企業様の生産性を上げていきたいと考えています。
2022年・2023年と米国からの影響もあり、リテールメディアというワードが日本でも注目されています。顧客理解していくファーストステップとして、データが重要だと認識されつつあり、良い流れにはなってきていると思っています。
したがって、メーカー・特約店様・流通企業様を縦割りではなくて、横でデジタルエコシステムを作り、共有しながら協業していける関係性や座組を作っていきたいですね。
