約5倍の滞在時間差があることを発見
──実際、どのくらい違ったのでしょうか。
中村:「これしか飲まない!」と決められているお客様は、売り場の滞在時間は9秒ほどで商品を手に取って他の場所に移られます。一方で、色々なブランドを買うお客様は、45秒ぐらいかけていらっしゃいます。約5倍の滞在時間差が生まれていることが、カメラを通してわかりました。
──結果からどのような示唆が得られましたか。
中村:滞在時間の結果が可視化できたことで画一的ではなく、お客様の購買行動を見ながら、プロモーションを変えていく必要性を痛感しました。我々が伝えたいことを店頭のポスターで我々が伝えたいことを貼っていても、滞在時間が約9秒のお客様は、ご覧になっていないわけです。「普段、他のお酒を手に取ってくださっているお客様にこそ知ってほしい」ことが届いていない可能性が高いことがわかりました。
逆に店頭での商品検討に45秒かけるお客様は「店頭から自分が何を選んだらいいか」背中を押してもらう情報を探してらっしゃるのですね。そこで背中をひと押ししてあげられる情報を適切に届ける必要があります。メーカーの独りよがりのメッセージになっては意味がないので、お客様の購買行動やニーズをもっと見ていく必要があると考えました。
適切な形での訴求を、リアルでも行っていく仕組み
──店頭にAIカメラを導入して変わったことはありますか。
中村:マス広告ではない、お客様のセグメント単位でより適切な形で訴求ができるコミュニケーションを図る素地が、出来上がっていきました。
ここ3年ほど、サントリーでは店頭サイネージなどのリテールメディアや、お客様が持ち合わせているスマートフォンへの広告配信にも注力しています。具体的には、流通企業様にご協力いただきながら、サイネージの設置されている店舗にてABテストを行っています。どのコンテンツが一番お客様に響き、商品の売上が上がったかを検証して、内容をブラッシュアップしています。
──ABテストを開始するにあたり、工夫した点はありましたか。
中村:「自社の商品さえ売上が上がればいい」というスタンスでは、やはり長続きしません。なぜなら、売り場は流通企業様の持ち物だからです。だからこそ流通企業様の、お酒カテゴリー全体の売上利益に貢献できる取り組みである必要があります。「サントリーの商品を売った結果、お酒全体の売上・利益が上がる」という、両者がWin-Winになるような状態を創出する。こうしたカテゴリーマネジメントを行いながら取り組みを進めています。
──これらの施策から、どのような学びが得られたのでしょうか。
中村:データを活用してABテストを行っていくことは、左脳的な要素が強く思われがちです。しかし実は、データから見えてくるお客様のインサイトからどう仮説を立て、コンテンツとして形にするかという右脳的な要素も重要です。
たとえば「○○なお客様に対しては、こういう訴求のコンテンツを流せばいい」と方針を決めるのは簡単です。そこから思い通りにお客様に届くコンテンツが作れるかが肝で、これは右脳的な要素が強いです。そのお客様が持つ課題が何なのかをしっかりインサイトで仮説立てて、それを解決できるコンテンツにしていく。ここは正直、本当に流してみて、売上も含めて見ていかない限りはわかりません。
テレビCMのように最初から最後まで見ていただきやすい環境ではないのがデジタルサイネージです。短い間に届けたいメッセージをどのようにお客様の認知の中に埋め込み、認識いただけるかを流通企業様にもご協力いただきながら、探求していく必要があると思っています。
