経済合理性や働く女性支援の追求だけでは足りない
――フェムテックをビジネス視点で考えた際、課題と感じることはありますか。
何度もお伝えしたように、様々な領域がフェムテックには含まれます。すべてがカバーされておらず、ソリューションやサービス・製品の有無に偏りがあると感じます。
具体的には、数値化しやすく、生産性向上につながりやすい課題が注目される傾向にあると思います。たとえば生理や更年期などから来る社員の体調不良は、労働損失にもつながるため社会にとって重要な問題です。課題解決策を提供することでメリットがあると判断されやすいでしょう。
妊活や不妊治療も同様に、社会課題として認知されており、国としても政策を掲げています。一方で、セクシュアルヘルスや性行為に関しては、認められにくい状況があります。事業として展開するにしても、セクシュアルな課題解決に対しては「それを行う意味があるのか」という疑問を持たれることがあり、社内説得が難しい傾向にあると思います。
性行為と生殖は切り離せないものですし、個人的には、セクシュアルな側面も含めて向き合っていく必要性があると考えています。
選択肢を増やし、選びやすくする世界に
課題解決策を提供する際には、その課題を持たない、その選択肢を選べない方々のことも考える必要があります。たとえば、子どもを持つ意思のない方もいますし、キャリアに関しても、継続的に働き続けたい方もいれば、別の道を目指す方もいます。
事業を伸ばそうと数値だけにフォーカスすると、取り残されたと感じる人も多くなってしまうのではないでしょうか。同様に、不安を煽り、コンプレックスを刺激してしまうような言葉には注意が必要です。
極端な例ですが、生理用品でいうと、新しい選択肢を提示するにしても、「月経カップを使わないなんておかしいですよ」といったアプローチは避けたいのです。どの業界でもそうですが、フェムケア・フェムテックと呼ばれるものも、特に問題を感じずに快適に生活できている方が無理に行うものではありません。
悩んでいる人に「こんな方法もあるよ」と、複数の選択肢の中の一つとして解決策を提示していく姿勢が大切だと思います。

「トレンドになれば売れるだろう」という考えで商品を作り、売るための手法を押し出すのは企業としては自然な対応かもしれません。しかし、女性の課題を解決するはずの商品が、結果として女性を傷つけてしまうようでは本末転倒です。そのバランスをしっかりと考えていく必要があると思います。
――最後に、西本さんの想いや夢、目標などをお聞かせください。
実際に悩みを共有し合いながら、一緒に課題解決をしていけるような場づくりを引き続き行っていきたいです。最近では性教育における対話を促すツール「Ba-Vulva(ばあばるば)」の制作販売も開始しています。
そのほか引き続き、タブー視されているものの価値観を変えていく活動も、同様に続けていきたいと思います。ただし、既存の価値観をお持ちの方々には様々な背景があるため、それを否定するようなことはしません。皆でより良い形で共有し合いながら変えていけたらと考えています。