「時短型のタイパ行動」と「バラエティ型のタイパ行動」(青山学院大学・久保田進彦 教授)
私は、いわゆるタイパ(タイムパフォーマンス)行動には「時短型」と「バラエティ型」の2タイプがあると考えています。
時短型のタイパ行動とは、可処分時間が少ないため、必要に迫られ時間効率を高めるものです。たとえば、家事、炊事、育児などをマルチ・タスクで効率的にこなすのは、時短型のタイパ行動といえます。バラエティ型のタイパ行動とは、一定の時間内で、より多くのものを消費したり、楽しんだりしたいというものです。映画を倍速で見る、音楽はサビだけ聴くといった行動は、バラエティ型のタイパ行動といます。
どうしてこの2つの分類が大切かというと、バラエティ型の存在を理解することで「可処分時間が少ない(時間がない)わけではないのにタイパ志向になる」という、一見矛盾した現象が理解できるようになるからです。
これは私の印象ですが、時短型のタイパ行動は、仕事・家事・育児に忙しい女性に多くみられ、バラエティ型のタイパ行動は学生や若い人に多くみられるような気がしています。たとえば仕事・家事・育児に忙しい女性が、上手に時間をやりくりしているのは時短型に思えますし、大学生や若い人が映画を倍速で見たり、音楽のイントロを飛ばしたりするのはバラエティ型に思えるからです。実際、こうした傾向は、インテージの調査にもあらわれています(図表4)。

(株)インテージ 産学連携生活者研究プロジェクト調べ
ベース:全国/サンプルサイズ:n=5504
時短型とバラエティ型のこれから
もちろんバラエティ型のタイパ行動は、今後、学生や若い人以外にも広がっていくでしょう。インテージの調査によると「一定の時間の中で、できるだけ多くのことを楽しみたい、経験したい」という項目に対して、Z世代以外の方々の50%以上が肯定的な回答をしているようです。また現在の学生や若い世代が、10年後あるいは20年後にバラエティ型のタイパ行動を取らなくなるとは考えにくいと思います。そう考えると、バラエティ型のタイパ行動が若い人に特有の行動というのは、過渡的な現象のように思えます。
それでは、時短型のタイパ行動が仕事・家事・育児に忙しい女性に多いことはどうでしょう。この問題について正面から議論するには、より詳細な調査が必要でしょう。しかし、もしこうした時短型のタイパ行動が、本当に仕事・家事・育児に忙しい女性に顕著であるとすれば、それは社会的に大きな問題です。すべての人たちが幸せに暮らせる社会を実現するためには、時短型のタイパ行動が特定のセグメントに特有の現象とならないよう、私たち全員がとりくむ必要があると思います。
【(株)インテージ産学連携生活者研究プロジェクト 定量調査データ】
調査地域:日本全国
対象者条件:15~40歳の男女
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
標本サイズ:n=5504 ※性別・年代を均等に回収
調査実施時期:2023年2月2日(水)~2月7日(月)