テレビCMセールスも「インプレッション取引」へ
「『テレビはどう生き残るか?』というタイトルですが、はっきり言って放送だけで生き残るのは無理です」と、セッション冒頭から横山隆治氏は断言する。
地上波の広告収益が軒並みマイナスになっている状況で、テレビCMの収入を端的に増やすには、視聴率を上げて広告在庫を増やすか、広告単価を上げる必要がある。しかし、そのどちらも容易ではない。ストリーミング配信を活用するなど、デジタルとテレビの共存が避けられない時代となっているのは自明の理だろう。
本セミナーでは、デジタルが「主」テレビが「従」となる時代における、テレビCM取引の考え方について紹介している。横山氏・楳田氏が提唱するのは、従来のGRP(延べ視聴率)での取引から、インプレッション(表示回数)での取引への転換だ。テレビCMをデジタルと同じ土俵に上げ、単位を「インプレッション」で揃えることで、結果的に広告単価を高めていくことができるという。
実際にCPM(1,000回あたりの広告表示単価)で比較してみると、地上波テレビCMは平均350円~400円なのに対して、コネクテッドTV等のストリーミングによる動画広告は3,000円前後と、10倍近い差があるのが現状だ。テレビ局・広告主ともに、GRP取引によるまとめ売り・まとめ買いから脱却し、テレビCM1本1本の価値を吟味していくべきだと、両氏は語る。
広告が嫌われる時代におけるテレビCMの意義
日本におけるデジタル広告の黎明期から携わってきた横山氏だが、「昨今のデジタル広告には非常に違和感がある」と警鐘を鳴らす。
「デジタル広告は専念視聴割合が高く、アクティブな視聴だと一般的に言われています。しかし、アクティブに視聴されているのはあくまでコンテンツであって、広告ではありません。とりあえずデジタル広告で視聴者にぶつけていれば効果がある、なんて思ったら大間違い。特に若い人たちにとって、広告はもうすべて『うざったいもの』にしか映っていません。広告がイヤだったら広告なしの有料会員になるよう、YouTube等のメディア側も誘導しています。広告に携わってきた人間として、これは危機的な状況だと感じています」(横山氏)
デジタル広告が視聴者に邪魔者扱いされ、受容性の低いものになってしまっている一方で、テレビCMは70年ほどの長い年月をかけて、視聴者とテレビ局の間で“ある種の和解”を成立させてきた歴史がある。たとえば、クオリティの高いテレビCMが放送される1社提供の番組では、番組からテレビCMに移行しても画面注視率が落ちにくい。
しかし、これからもテレビの視聴率が落ちていけば、テレビCM量はさらに減っていくことになる。テレビCM量が減るということは、受容性の高い広告枠が減っていくということだ。広告主は効果のある広告枠を購入できなくなってしまう。
「効果的な広告枠が売れなくなる/買えなくなるという由々しき問題が起こる前に、テレビCMはあり方を再構築していかなければならない」と横山氏。「プレミアムなコンテンツにプレミアムなCM」を放送できることは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)とは一線を画す、テレビならではの強みだろう。
「テレビCMの受容性が高いうちに、テレビは“質”を追求すべし」と、横山氏は本セミナーの大前提として呼びかけた。