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エビデンスベーストマーケティングの基礎

マスマーケでしか越えられない「浸透率の壁」とは?ダブルジョパディでシャンプー市場を大解剖


どの時期から「浸透率メイン」の戦略にシフトすればよいのか?

 であるならば、「いつから浸透率メインの戦略にシフトすべきか」が焦点になるわけですが、シャンプーカテゴリーではおよそ相対浸透率2.5%以上のブランドに絞った時に明らかなDJラインが現れます。従ってシャンプーブランドは、「相対浸透率2%を超えたあたり」を目安に、マス媒体の採用や配荷先の増加、CEPの拡大、インクリメンタルリーチ重視のターゲティング、感情訴求を中心としたブランド構築などの浸透戦略を検討すべきではないかと考えられます。

 逆に言うと、浸透率2%あたりまでは、STPやファンのロイヤルティを中心とした取り組みでも成長できるのかもしれません。ちなみにシャンプーカテゴリーの初期成長に関しては、「デジタルマーケティング」×「フィジカルアベイラビリティ」の組み合わせが有効かと思われます。

 つまり、特定タイプの小売店への配荷を担保した上で、SNSやECを用いて受容層に想起形成するというやり方です。代表的なものとしてはI-ne社のボタニストのエンブレム戦略*(ECサイトで高い順位を獲得し、それをアテンションシールなどで商品に付与してオフラインに展開する)が挙げられますし、プレミアムヘアケアカテゴリーでは同じような戦略をとっているチャレンジャーブランドも見受けられますね。

 要するに、「小さなブランドには小さなブランドなりの攻め方がある」という話なわけですが、一方で、それだけでは超えられない「浸透率の壁」というのもありそうです。というのも、シャンプーだと相対浸透率で5~12%あたりに、恐らくマスマーケティングなしでは超えられない領域がありそうなのです。

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■シャンプー市場における経験的一般化:戦略シフト

・先行研究:ブランド成長のメインドライバーは浸透率である(Sharp, 2010)

・再現研究:相対浸透率が2%を超えた辺りから本格的に浸透率メインの戦略を検討すべき。特に現在のシャンプー市場では、浸透率5~12%辺りにデジタルマーケティングだけでは超えられない「浸透率の壁」がありそう。

※エンブレム戦略の定義は筆者による

仮説:デジタルマーケティングでは越えられない壁がある?

 この空白が何を意味するか、少し考えてみましょう。上位3強は言わずもがな広告も流通も大量投下の大規模ブランドです。中堅クラスで浸透率5%を超えてきているのはTSUBAKI、いち髪、エッセンシャルです。最近はSOVが控えめなブランドもありますが、これらがこの位置にいるのは、恐らく流通と購買習慣がある程度確立されている成熟ブランドだからだと思われます。

 一方、ボタニストは先述の「デジタルマーケティング×フィジカルアベイラビリティ」でシャンプー市場に風穴を開け、現在では追われる立場ですが、ボタニストもそれに追従するその他のプレミアムヘアケアブランドもこの壁を超えられていません。その意味では、デジタルマーケティングを中心とした戦略の境界条件(i.e., 限界)を表しているのかもしれません。そうした見地に立てば、やはり成長段階に応じて戦略視点や取り組みを変えていくことの重要性がうかがわれます。

 ただし、これはまだ仮説の域を出ないことも付け加えておきます。こうした浸透率上限がシャンプーカテゴリー特有のものなのか、それとも他カテゴリーでも再現されるのかについては、さらに実証研究を重ね、カテゴリーごとのノルムを探索していきたいと考えています。

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引用文献

Ataman, M. B., Mela, C. F., & Van Heerde, H. J. (2008). Building brands. Marketing Science, 27(6), 1036-1054.

Binet, L., & Field, P. (2018). Effectiveness in context: A manual for brand building. Institute of Practitioners in Advertising.

Dowling, G. R., & Uncles, M. (1997). Do customer loyalty programs really work?. Sloan Management Review, 38(4), 71-82.

Scriven, J., Bound, J., & Graham, C. (2017). Making sense of common Dirichlet deviations. Australasian Marketing Journal, 25(4), 294-308.

Sharp, B. (2010). How brands grow: What marketers don't know. Oxford University Press. (シャープ, B. /加藤巧(監修)・前平謙二(訳)(2018)『ブランディングの科学:誰も知らないマーケティングの法則11』朝日新聞出版)

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この記事の著者

芹澤 連(セリザワ レン)

マーケティングサイエンティスト。数学/統計学などの理系アプローチと、 心理学/文化人類学などの文系アプローチに幅広く精通。 非購買層やノンユーザー理解の第一人者として、消費財を中心に、 化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事。 エビデンスベースのコンサルティングで...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/08/22 18:59 https://markezine.jp/article/detail/46606

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