ダブルジョパディをマーケティング実務に落とし込むとわかること
ダブルジョパディの法則で示されている市場傾向が、実務でどのような意味を持つか――まず、顧客数、リピート率、単価はそれぞれ個別に、あるいは任意の順番で動かせるわけではないという点が挙げられます。
たとえば、売上分解をして、「今期はリピート率アップ、次の四半期は単価アップ、そのあと来年に新規獲得を強化していこう」のように目標設定することがありますが、そのような恣意的な順番で伸ばせるとは限らない、ということです。
また、従来のマーケティングでは、「小さなブランドは、顧客数こそ少ないがロイヤルティの高いファンに支えられている。そうした既存顧客の満足度や推奨意向を高めていくことでいずれ顧客数も増え、企業は成長していく」みたいに考えることがありますよね。たしかにそう言われると納得感もあり、商売の本質を突いている感じもするのですが、現実の市場や消費者行動は必ずしもそうはならない、というのがダブルジョパディです。
つまり、顧客数が増えれば自然とロイヤルティも高まりますが、ロイヤルティを高めたからといって顧客数が増えるわけではないんですね。むしろ浸透率とロイヤルティは連動するので、浸透率を増やさずにロイヤルティだけを高めるといったことは難しいと言われています(Binet & Field, 2018)。
このあたりは、本連載の初回記事でも詳しく書いています。自分で確かめたいという方は、近年の実証研究が整理されているレビュー論文をいくつか載せておきますので、そちらからご確認ください。
・NBD-Dirichletモデルについて:
Driesener, C., & Rungie, C. (2022). The Dirichlet model in marketing. Journal of Consumer Behaviour, 21(1), 7-18.
・ダブルジョパディについて:
Graham, C., Bennett, D., Franke, K., Henfrey, C. L., & Nagy-Hamada, M. (2017). Double Jeopardy–50 years on. Reviving a forgotten tool that still predicts brand loyalty. Australasian Marketing Journal, 25(4), 278-287.。
・『ブランディングの科学』の各種法則について:
Sharp, B., Dawes, J., & Victory, K. (2024). The market-based assets theory of brand competition. Journal of Retailing and Consumer Services, 76, 103566.
ダブルジョパディは日本市場にも当てはまるのか? シャンプーカテゴリーで分析
さて、本稿の関心事は、こうしたパターンが現在の日本市場にも当てはまるのかということです。そして、それ以上に重要なのが、「ダブルジョパディが当てはまったとして、だからどうなのか?」「そこからどのような戦略的示唆が得られるのか?」ということでしょう。
いくら再現研究とはいえ、現象として確認するだけでは意味がありません。そこから「日本ならでは」あるいは「そのカテゴリーならでは」の戦略視点が得られて初めて、エビデンスに実務的な価値が生まれます。
とはいえまずは、「日本市場にもダブルジョパディは当てはまるのか」という前提の確認から始めましょう。次の図は、カタリナ消費者総研の大規模ID-POSデータを基に作成した、日本のシャンプー市場を表すDJラインです。期間定義は2023年6月~2024年6月の52週間、相対浸透率2.5%以上の14ブランドを表示しています。

ご覧のとおり、「大きなブランドと小さなブランドの主な違いは浸透率であり、かつ大きなブランドはロイヤルティもやや高い」という典型的なダブルジョパディのパターンになっていることが確認できます。上位3強に食い込むには、明らかに浸透率を増やしてDJラインを登っていき、頭1つ抜け出す必要があることがわかりますね。
■シャンプー市場における経験的一般化:ダブルジョパディの法則
・先行研究:ダブルジョパディは多くの国やカテゴリーで観測される(Sharp, 2010)
・再現研究:日本のシャンプーカテゴリーにもダブルジョパディが当てはまる