「自己とブランドの結びつき」を理解するポイント
第1回では、ブランド・リレーションシップとは「ブランドとの絆」のことと説明しました。しかしそれでは、まだ漠然としています。今回は、もう少し明確な理解を目指していきます。
ブランド・リレーションシップ研究では、消費者がブランドとの間に感じる絆のことを「自己とブランドの結びつき」(self-brand connection)といいます。これは、心の中でブランドが「自分」と結びついている状態です。
「自己とブランドの結びつき」を理解するポイントは、誰にとっても「自分」は特別な存在だということです。ほとんどの人は「自分」を大切にしようとし、他の人より優先します。特に困っているわけでもない他人に、自分のお金をプレゼントする人はまれでしょう。
私たちは、自分を大切にするだけでなく、自分と深く結びついたものも特別扱いします。たとえば、人(自分の子ども)、組織や集団(自分の勤務先、チーム)、国や地域(自分の生まれ育った街)、正しいと思っている考え方(自分の信念)など、私たちが特別扱いするのは、そのほとんどが「自分」と結びついたものです。
これと同様に、自分と深く結びついたブランドも特別な存在となります。ブランドと自分との結びつきを自覚すると、それは「私のブランド」となり、他のブランドとは異なる特別な存在になります。そして愛着が生じ、強いロイヤルティが形成され、多少高くても喜んで購入するようになります。また肯定的なクチコミを発信したり、人に推奨したりしたくなります。さらには、そのブランドをより良くするために、助言することもあります。
ここまでお読みになって、お気づきになった方も多いでしょう。自己とブランドの結びつきが形成されると、いわゆる「ファン」の行動が見られるようになるのです。「ファン・マーケティング(ブランド・リレーションシップの実務用語※詳しくは第1回)」とは、実は「自己とブランドの結びつき」(self-brand connection)を生み出し、活用することなのです。
特徴は「肯定的」で「持続的」であること
ブランド・リレーションシップには忘れてはならない特徴が、少なくとも2つあります。まずブランド・リレーションシップは、好ましい評価や感情を抱いているブランドに対して形成されます。つまりそれは、自己とブランドの「肯定的な」結びつきです。嫌な思い出があるブランドとの関係は、ブランド・リレーションシップといいません。
またブランド・リレーションシップは、瞬間的に生じるものではなく、それまでの経験や知識にもとづき、時間をかけて形づくられます。したがってそれは、「時間の経過とともに形成される」結びつきといえます。たとえばブランドのイベント会場などで生じるその場限りの瞬間的な結びつきの感覚は、ブランド・リレーションシップに含まれません。
先ほど述べた「自己とブランドの結びつき」と、これら2つの特徴を組み合わせると、ブランド・リレーションシップの定義が導けます。ブランド・リレーションシップとは「自己とブランドの肯定的で持続的な心理的結びつき」(久保田, 2024, p.3)のことです。そのためブランド・リレーションシップは、企業にとって望ましく安定的な資産となります。