ブランド・リレーションシップは好感度や満足度で測れない
ここまで抽象的な議論をしてきたのには、理由があります。それは、ブランド・リレーションシップが形成されているかどうかは、ブランドの好感度や満足度を調べてもわからないことをお伝えしたかったからです。
既におわかりのように、ブランドのファンとは、単にそのブランドが好きな人ではありません。あるいは単にそのブランドに満足している人でも、よく買う人でもありません。ブランド・リレーションシップは購買履歴だけではわかりませんし、好感度や満足度のような一般的なアンケートでもわからないのです。ブランドのファンを見つけようと好感度や満足度を調べても、無駄に終わります。
それでは、ブランド・リレーションシップはどうやって測ったら良いのでしょう? これはとても大きな問題ですので、次回のテーマとしたいと思います。
「小道具」としてのブランドと「相棒」としてのブランド
最後に、ブランド戦略と打ち手を考える上で役立つ、ブランド・リレーションシップのタイプについて考えてみます。ブランド・リレーションシップにはいろいろなタイプがありますが、ここでは最も基本的な2つのタイプをご紹介します(いずれも久保田, 2024より)。
以前私がインタビューをした際に、三菱自動車のモーター・スポーツ・ブランドである『ラリーアート』に強く惹かれている男性がいました。40代半ばの彼は、自分のことを、いつまでも若く見られたい、永遠の少年でいたい、と話していました。また、ラリーアートについて、若々しくて力強いイメージがある、と語っていました。この男性がラリーアートに絆を感じている理由は、とてもわかりやすいと思います。それは、ブランドが自分らしさを実感したり、表現したりするための小道具となっているからです。
もう1人、別の方の例をご紹介しましょう。この方は『ペヤング ソースやきそば』の熱烈なファンであり、周囲には「ペヤンガー」を自称しているそうです。彼は、ペヤングを愛する理由について、ペヤングは親に用意されたのではなく「自分が好きなときに、自分で作って食べた」という特別な経験や、自身が精神的、金銭的に苦しいときに「助けてくれた」という感情とつながっていると述べていました。
また「ペヤング」以外のブランドにスイッチしない理由の1つとして、他のブランドは「自分の楽しみや苦しみを知らない」ことを挙げていました。この方が「ペヤング」に絆を感じている理由は、個人的な経験や感情の共有者として、まるで親しい友人のような存在になっているからだと解釈できます。
2つの事例を比べると、ブランドは好ましい自己を創りだしたり、現実の自己を確認したり、あるいはそうしたイメージを表現するための「小道具」として機能することもあれば、自分のことを理解してくれ、ときには心の支えになる「相棒」として機能することがわかります。
たとえば環境に関心がある人にとって、「パタゴニア」のような環境保護型ブランドは、自分らしさを確認したり表現したりするための小道具になるはずです。またこれとは対照的に、仕事で悩んだときに1人で楽しむことの多かったウイスキーのブランドを、心を許せる相棒のように感じる人もいるでしょう。
英語で小道具のことを「props」(propertiesの略)ということから、前者のようなブランドは「プロパティー型ブランド」といえます。また後者のような相棒ブランドは「パートナー型ブランド」といえます。ブランドは「自分にとってどのような存在か」によって、プロパティー(小道具)となることもあれば、パートナー(相棒)となることもあるのです。
ブランド・リレーションシップにプロパティー型(小道具型)とパートナー型(相棒方)があることは、それらを「ファン」とひとくくりにしない方が良いことを意味しています。異なるタイプの結びつきであれば、異なる打ち手があるはずです。
タイプは、さらに細かく分けることもできます。拙著『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)では、6つのタイプのブランド・リレーションシップを紹介しています。ブランド・リレーションシップを実務に展開するには、こうしたより細かな分類が参考となるはずです。
今回は「ブランド・リレーションシップとは何か」について考えました。全体的にやや抽象的な話が続きましたが、ブランド・リレーションシップという概念が、だいぶ明確になったと思います。次回は、ブランド・リレーションシップの強度をどうやって測定するかについて、考えていきましょう。
【参考文献】