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愛されるブランドの仕組み:ブランド・リレーションシップ入門講座

満足度・好感度では測れない!顧客との絆を深めるブランド戦略/打ち手に役立つ2タイプも解説【第2回】

ブランド・リレーションシップの正体は「愛着」と「同一化」

 自己とブランドの結びつきについてさらに考えて、ブランド・リレーションシップの正体を探ってみます。ブランド・リレーションシップ研究では、自己とブランドの結びつきを「同一化」と「愛着」という2つの異なる概念を使って説明しています。

 「同一化」はアイデンティフィケーション(identification)の日本語訳であり、「同一視」ということもあります。同一化(あるいは同一視)とは、ある対象を、自分の一部であるように感じることです。一体感を抱くことといっても良いかもしれません。

 たとえば、好きなブランドが称賛されれば自分のことのようにうれしく感じ、逆に批判されれば自分も傷ついたように感じることがあるでしょう。このように、自分との重なりや一致を感じることは、決してめずらしくないはずです。

 「愛着」はアタッチメント(attachment)の日本語訳です。愛着という概念にはいくつか意味があるのですが、ブランド・リレーションシップ研究では、ブランドとの愛情豊かな結びつきを指します。緊密な愛情関係といってもよいでしょう。同一化と異なり、愛着は日常生活でもよく用いる概念なので、直感的にも理解しやすいと思います。

 以上のように同一化と愛着は本来的には異なる概念ですが、ブランド・リレーションシップ研究では、両者がほぼ同じ意味で使われてきました。したがってブランド・リレーションシップ(あるいは自己とブランドの結びつき)とは、ブランドに対して深い愛情を抱くとともに(愛着)、自分との重なりを感じていること(同一化)といえます。これがブランド・リレーションシップの正体です。

自己とブランドの結びつき

ブランド態度・ブランド満足は似て非なるもの

 ブランド・リレーションシップの正体がわかると、他の類似した概念との違いもはっきりします。ブランド・リレーションシップと似て非なるものとして、「ブランド態度」や「ブランド満足」があります。抽象的な話が続きますが、大切なポイントなので、もう少しだけお付き合いください。

 ブランド態度とは、あるブランドに対する「好き〜嫌い」や「良い〜悪い」といった「評価」のことです。ややこしいのは、好ましいブランド態度が形成されている場合も、ブランド・リレーションシップが形成されている場合も、顧客の再購買意向やリピート率が高まることです。つまり、いずれもブランドに対するロイヤルティを生み出します。このため、ブランド態度とブランド・リレーションシップは混同されがちです。

 しかし、好ましいブランド態度は、自分にとってさほど大切ではない(つまり絆を感じていない)ブランドにも形成されます。たとえば、ストローのブランドに対して、深い愛情や自分との重なりを感じることは稀ですが、デザインや使い勝手の良いストローに「とても良い!」といった評価を下すことは珍しくありません。ブランド・リレーションシップがなくても、好ましいブランド態度は形成されるのです。

 「ブランド満足」とは、製品やサービスを消費や使用した後に生じる充足感であり、その製品やサービスが心地よい水準を提供したと感じたときに生じます。ブランド満足は、顧客満足(CS)といわれることもあります。

 ブランド態度と同様に、ブランド満足もブランドに対するロイヤルティを生み出します。しかし満足もまた、自分にとってさほど大切ではないブランドに生じます。「たまたま買ったストローを使ってみたら、大満足!」という場面は、想像に難くありません。ブランド態度と同様に、ブランド満足も、ブランド・リレーションシップの有無に関わらず生じるのです。

 両者がブランド・リレーションシップと異なる点は、他にもあります。まず、ブランド・リレーションシップが時間の経過を通じて形成されるものであるのに対して、ブランド態度が形成されたり、ブランド満足が生じたりするのに、時間の経過は必要とされません。初めて手に取った製品に、瞬間的に「これは良い!」と感じることや、使用した直後に「とても満足!」と思うことはよくあるはずです。

 またブランド・リレーションシップが形成されていると、そのブランドを失うことに苦痛を感じやすくなりますが、ブランド態度やブランド満足は必ずしもそうでありません。最愛のブランドがなくなったら悲しいでしょうが、たまたま買った使い勝手の良いストローが手に入らなくなっても、すぐに代わりを探すのが普通です。このようにブランド態度やブランド満足は、形成に時間の経過を必要としないことや、分離の苦痛をともなわないことでもブランド・リレーションシップと異なります。

 ブランド態度やブランド満足はブランド・リレーションシップの基礎になりますが、必ずしもブランドとの間に絆が形成されている(あるいは自分の一部のように感じたり、深い愛情を感じたりしている)わけではないのです。

ブランド態度とブランドリレーションシップ

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ブランド・リレーションシップは好感度や満足度で測れない

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この記事の著者

久保田 進彦(クボタ ユキヒコ)

青山学院大学 経営学部教授、博士(商学)(早稲田大学)。日本商業学会学会賞受賞(2007年論文部門 優秀論文賞、2013年著作部門 奨励賞)、公益財団法人吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞受賞(2010年度、2016年度)。最新作は『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)他著書多数。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/09/19 08:00 https://markezine.jp/article/detail/46710

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