SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』

Oracleが広告事業を撤退、市場の変化を示す重要なシグナル

「静かな発表」に隠された意図

 下記は、Oracleのマーケティング・アドテク領域における買収歴だ。本業のSaaS契約につながる事業の買収に専念していたが、結果として「水が合わない」という判断である。

Oracleのマーケティング・アドテク領域における買収歴

2013年 Responsys(Emailマーケティング/金額未発表)

2014年 BlueKai(PC・スマホの3rd Party Data収集/4億ドル)

2014年 Datalogics(店舗・クレジットカード・ポイントカードの購入データへ広告ターゲティング/12億ドル)

2016年 AddThis(Webサイトのブックマーク/2億ドル)

2017年 MOAT(デジタル広告のパフォーマンス分析と広告投資の最適化/8.5億ドル)

2018年 Grapeshot(キーワードによるコンテクスチュアル・ターゲティング/4億ドル)

 注目したいのは、買収時期だ。上記の抜粋例を見ても、Oracleの買収活動は2018年以降止まっている。2018年といえば、3月にFacebookによる「ケンブリッジ・アナリティカ事件」が報じられ、5月にGDPRが施行されたタイミングだ。この辺りで「変化」があったとうかがえる。

 インターネット創成期において、「広告(マーケティング)のターゲティング(覗き見)が技術上可能になったぞ」という幻想が抱かれていたが、振り返れば規範に反する行為が横行していた。業界は、2018年を境に「襟を正す」方向に動いてきたはずだ。Oracleも同様と考えられる。

 路線修正を進める間も、広告の「ターゲティング」事業に対する向かい風は強まっていく。2020年にはOracleに対し、広告データの取り扱いに関するGDPR違反の訴訟がオランダで提起された。未だ審議中だが、訴訟はユーザーへの支払が8,500億円を超える規模となっている。小さすぎて儲からない広告事業の2024年度の売上は約450億円、営業損益は未公表だ。訴訟の矛先は「Oracleの基幹事業」のクラウドサービスなので、まさに「足かせセグメント」だ。

 オランダ一国の市場で、この規模の賠償金額である。さらに他国への訴訟ドミノが発生する可能性も大いにあり得る。「もう広告ターゲティング事業とは一切関係ありません」という立場を波風立てずに示すため、今回の事業撤退は「静かに」かつ「隠さず発表」したい意図・背景があったのだ。

 実際、一次情報であるOracleの公式IR資料には「広告事業撤退」に関する発表は一切見当たらないほどの静かさだ(音声アナウンスのみ)。そのため、日本でもこの約4,000億円の投資償却について、ほとんど知られないままの状況なのだろう。

本来の基点に戻ったOracle

 Oracleのクラウド事業は、既に「重たい(医療・保険・金融・教育)データ」側に戻っている。

 たとえば、Oracleは2024年度報告のハイライトとしてPalantir社を事例登場させている。Palantirは、主に政府系機関(米軍、国防総省、FBI、CIAなど)をクライアントに、機密案件データを扱う企業だ。また、生死に関わるデータを扱う米国最大級の非営利の医療団体Huntsville Hospital(アラバマ州)も並べて報告している。

 本来の基点に戻ったOracleは、以降自らを「(軽いデータ側の)プラットフォーマー」とは称さない。

 ターゲティング&マーケティング領域で「プラットフォーマー」と名乗れるのは、今やGAFAMのような世界数十億人規模で一般消費者に(軽く)リーチできる事業者のみだ。巨人Oracleの広告事業終了は、ポストCookie時代と騒ぐ側へ、経済規模や事業方向に対する「判断区分」を与える機会となった。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2024/10/09 09:30 https://markezine.jp/article/detail/46770

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング