新たな提案、改良や開発を通して離反顧客の復帰を促す
MZ:価値の再評価では、離反がとても多く書き込まれていますね。
西口:そうなんです。実際、一度買っていただいても、その多くが離反していきます。なので、便益と独自性を磨き続け、訴求し続けて、離反を防止していくことが必要です。
また2回目、3回目と継続してくださる方については「特に何を評価して継続しているのか」を常に考え、価値を再評価していただき続けなければいけません。そうして、図にある通り、購入単価や購入頻度を高めていきます。
一方、離反してしまった多くの顧客に対しては、そこから復帰していただくことを考えます。これが、次の段階です。

(5)離反の復帰
西口:(4)で離反した顧客をそのままにせず、その方々はなぜ離反したのか、何を求められているのかを追求し、離反顧客が価値を見出してくれる新たな便益と独自性を探ります。それが現状のプロダクトの中に見つかれば、改めて訴求し、再購入を促します。その便益と独自性を現状ではプロダクトが有していなかったら、プロダクトの改良や強化、もしくは新たに開発し、新しいWHOとWHATを実現して離反顧客に提案します。
並行して、元々のWHOとWHATに対してこの新しいWHOとWHATにはどのくらい可能性があるのか、つまり潜在的な顧客数や投資効率などを検討して、ストラテジーマップ全体で「どのWHOとWHATを優先すべきか」を判断し、その成立を最大化するHOWを再検討します。
一連のプロセスを強固にするのがブランディング
MZ:離反顧客に復帰してもらうには、色々な策があるのですね。
西口:訴求点を変えればいいのか、プロダクトの改良や強化が必要か、それとも新規開発が必要かという3つの方法があり、それぞれ社内の連携も変わってきます。そのため見極めが大事ですが、あまり時間をかけると競合に獲られてしまうこともあるので、スピードも重要になりますね。
そして、ここまでの一連を強固にするのがブランディングです。
(6)ブランディング(価値を記号化・強い記憶に)
西口:(2)から(5)で実現する価値を強固にするのが、ブランディングです。プロダクトの便益と独自性がないのに、ブランディング自体で新たな便益と独自性の構築はできませんが、顧客が価値として認めたプロダクトの便益と独自性を、プロダクトの名前やロゴなどの識別記号として強い記憶として残すのが主な目的です。記憶化され想起される可能性を強化し、初回購入から継続的な購入を促進し、忘却離反を防ぐことが重要です。
価値をブランド名・ロゴ・色・形・言葉などの象徴として記号化し、顧客の記憶にしっかり残るよう促します。

PDCAを回して「価値」を成立させ続ける
MZ:ストラテジーマップは、本連載でお話しいただいた流れが1枚に収まっているのですね。
西口:はい。永遠に広がり続けるマーケティングという樹海は、シンプルに考えるとこのストラテジーマップで可視化できるのです。
どんどん増えていくマーケティングのHOW(手段手法)は、ストラテジーマップ内のWHO(顧客)とWHAT(便益と独自性)の実現、そして(1)から(6)のどこかに必ずひも付きます。それがどこかわからない場合、そのHOWの実行は思い留まるべきです。何のために今、その手法を使うのかが見えていない、ということだからです。
MZ:実行しようとしている手法が新規顧客の獲得のためなのか、離反顧客の復帰のためなのかがわかっていないと、そもそもその手法が適しているのかどうかがあやしいわけですね。
西口:そうです。HOWには必ず目的があります。その目的は、必ず特定のWHOとWHATに結びつきます。この地図を手元に置いて現在地を確認することで、自信を持って樹海を抜け出し、ビジネスの世界を旅することができます。
やるべきことは、出発点である価値を成立させる「WHOとWHATの組み合わせ」を定義し、価値を実現する様々なHOWを実践し、その効果と効率を検証していくことです。そしてWHOとWHATとHOWについてPDCAサイクルを回し、プロダクトの改良や開発も視野に入れながら、新たな価値を成立させ続けていきましょう。
西口氏のマーケティング入門連載【第19回】はこちら!
西口氏のマーケティング入門連載【第21回】はこちら!