ダークサイドに陥った売り方は、身近にある
MZ:西口さんからご覧になって、ダークサイドに陥っている広告には具体的にどんなものがありますか?
西口:皆さんに身近でわかりやすいものとして、インターネット上の広告には、まさにダークサイドだと思うものも数多くあります。
たとえば、美容系の広告で「この美容液を塗れば、20歳も若返って見える!」といったものです。画像加工などによって、あえて老けさせたような顔写真と明らかに若い顔写真を並べて、ビフォー/アフターに見せていたりしますよね。ダイエット系の広告も、写真の縦横比率を操作して、ビフォーよりもアフターのほうをずっと細く見せたりしています。厳しく取り締まっても、まだありますよね。
MZ:確かに、そのような広告に見覚えがあります。
西口:注意すべきダークサイドは、広告を含めて、買っていただくための様々な販売促進の手段手法=HOW全般において見られます。
広告や店頭の看板などと実際の商品が違っていることも、顧客を欺くことになります。実際に買ってみてあまりに違うと、がっかりしますよね。広告では大きく見える美味しそうなハンバーガーが、実際には小さかったり。
また、大きな袋にたくさん入っているように見えるお菓子でも袋を開けるとすごく数が少なかったり、ましてや、実際には在庫がほとんどない商品を大々的に告知して、それを目当てに集客する「おとり広告」も問題になります。そのつもりはなく、想定以上の人気で早々に売り切れてしまう場合もあるでしょうが、過去には、全国的に有名な企業でもおとり広告が疑われ、景品表示法違反で消費者庁などから措置命令が出されたケースもあります。
「悪気はない」のにダークサイドに陥る理由
MZ:そうした展開は、顧客からのクレームの元になるのではないですか?
西口:その通りです。顧客の不利益が生じないよう、企業の売り方に対しては消費者庁や広告審査機構が厳しくチェックをしたり、是正勧告を出して指導したりしています。
もちろん、そういったことが発生すると顧客を失う上に、企業やプロダクトの評判も落としてしまいます。ダークサイドに陥らないよう、マーケターは顧客に対する倫理観やモラルを常に高く維持することが必要なのです。
MZ:なるほど。でも、当然ながら誇張した広告を展開してはいけないし、長い目で見ても自社のプラスにならないことは、考えてみればわかることではないでしょうか。なぜ、冒頭でおっしゃったように「知らず知らずにダークサイドに陥る」のですか?
西口:いい視点ですね。まず、誇張だとわかっているのに展開するのは、明らかに悪気がある行為です。それなのに実行するのは、要は目先の売り上げが大事だからでしょう。顧客は、実際に裏切られた、騙されたと感じるような経験をすれば、当然ながらほとんどの場合リピートに至りません。しかし顧客がリピートしてくれるかどうか関係なく、目先の一時的な売り上げでもいいから、とにかく売り上げを高めようとする状態に陥るのです。
また、このように目先の売り上げに追いかけられなくても、ほとんどのマーケターは一生懸命に働く中で「悪気なくダークサイドに陥る」ともいえます。どういうことかというと、一部の悪気がある企業以外では、自社プロダクトが“いいもの”だから売ろうとするわけですよね。
ぜひ買っていただきたい、体験していただきたいという純粋な思いで、販売促進や広告や売り方を考えます。その過程で、より気づいてもらい魅力が伝わるように「もう少し色を鮮やかにしよう」「インパクトのあるコピーにしよう」といった工夫がマーケティングの業務として生まれ得るのです。