陥ってはならないマーケティングの「ダークサイド」
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):本連載ではここまで多くのトピックをうかがってきましたが、終わりも近づいてきました。今回は、マーケティング業務に邁進する中で陥りやすい“ダークサイド(暗黒面)”を知っておいてほしい……ということですが、ここでいうダークサイドとは何ですか?
西口:端的にいうと、プロダクトを売りたいがゆえに、顧客の過剰な期待を煽ってしまうことを指しています。怖いのは、程度の差はあれ、知らず知らず多くのマーケターがこの“ダークサイド”に陥ることです。
MZ:そうなんですか? プロダクトに価値を見出してくれる顧客に対してならば、提案して困らせることはなさそうですが……。
西口:はい、プロダクトに顧客が見出す「便益と独自性」が本当に備わっていて、それを実直に提案しているなら問題ありません。第5回で解説した「プロダクトアイデア(プロダクトの便益と独自性)」が確立していて、それを「コミュニケーションアイデア(コミュニケーションの便益と独自性)」にしっかり落とし込んで展開している場合ですね。
西口:ダークサイドには主に、プロダクト自体の便益や独自性が不十分であっても、そこをコミュニケーションの力で補って売ろうとする時に陥りがちです。言い換えると、コミュニケーションアイデアの見せ方や伝え方で、プロダクトの実態以上の便益や独自性を訴求して、強引にでも顧客に買っていただこうとしてしまうのです。
「よい広告」とは、どういうもの?
MZ:コミュニケーションアイデアで、現実以上に魅力的に見せる……といったことですか?
西口:その通りです。これまで様々なプロダクトのマーケティングに携わる中で、しばしば「よい広告って、どういうものですか?」と聞かれることがありました。吉永さんが顧客の立場だったら、自分を対象としたプロダクトがどんな広告を出していたらいいと思いますか?
MZ:そうですね……そのプロダクトについて、特徴やメリットを正直に伝えてくれるものでしょうか。やはり誇張するのはよくないと思いますね、それを信じて買ってみて、期待と違ったら、嘘をつかれたような気持ちになります。
西口:私も同感です。では、吉永さんが企業の立場で「このプロダクトを売らなければいけない」という責任を負ったら、どんな広告がよい広告でしょうか?
MZ:そうすると「売れる広告」がよい広告だと答えてしまいそうです。
西口:そうなんです。企業側の立場で考えると、「顧客が魅力を感じて購入の意思決定をする」よう、実態以上に誇張して見せたり伝えたりしてしまうことがあるのです。結果として売り上げがアップしても、それはよい広告とはいえません。
ビジネスである以上、売りたい、売らなければと考えるのは当然です。ただし、それを優先するあまり、コミュニケーションアイデアを操作して顧客を欺こうとするのが、マーケティングのダークサイドです。