はじめに
「認知を獲得し、名前や提供価値、独自性を記憶させ、必要が生じた際に優先的に思い出してもらう」
これらは、製品やサービスのブランドが市場で優位性を獲得するため、多くの企業が長年にわたり実践してきたアプローチと言えます。企業から生活者に向けた王道のコミュニケーションであり、情報の発信手段が多様化している現代にあっても、その様相は大きくは変わっていません。
他方で、「同様のアプローチはこれから先も有効と言えるのか?」「もしそうだとした場合に従来と同様の効果が期待できるのか?」という疑問が、以下の二つの潮流によって湧いてきます。
一つ目は、2017年にバーディーとエカートにより提唱された「リキッド消費(※1)」です。リキッド消費は、ビジネスとアカデミック双方の領域で注目を集めている概念であり、現代の新たな消費スタイルとして、(1)短命性、(2)アクセス・ベース、(3)脱物質の3つの特徴に言及しています。
昨今の社会を見渡せば、ファストファッションの台頭をはじめ、その時々で移り変わる“欲しいもの”をわずかな期間で消費し(短命性)、自動車や自転車などの移動手段に代表されるように、モノを所有することへのこだわりは減り(アクセス・ベース)、音楽や映画はディスクではなくストリーミングで楽しむ(脱物質)スタイルが定着してきています。
人々が製品やサービスを流動的に使い分け、所有をせず、物理的な“モノ”を持たなくなっていくとしたら、生活者とブランドの関係も、特定の場面ごとに完結するような、短く弱いものになっていくことが考えられます。
二つ目は、新たな世代の人々の価値観や消費習慣によるものです。Z世代やα世代などの世代研究が活発に行われるように、テックネイティブと呼ばれる彼ら・彼女らの意識や行動は、他の世代と大きく異なるとされています。
また、Z世代やα世代の人々は、物心がついた頃には、既に高度な買い物環境が確立されています。WebサイトやSNSを駆使して情報を吟味し、ECとリアル店舗を使い分けて膨大な選択肢の中から最適なものを購入できます。あるいは、そもそも購入はせず、サブスクリプションやレンタルサービスで、必要な時にだけ調達するケースも少なくありません。このように、テクノロジーを駆使して場面ごとに最適な選択肢を採用できる新たな世代の人々にとって、特定のブランドと強い結びつきを持つことの必要性は弱まっていくようにも感じられます。
なお、リキッド消費と新たな世代という二つの視点は、決して無関係ではありません。リキッド消費が社会に浸透する中、新たな世代の人々は、過去の経験に囚われることなくそれに順応しています。青山学院大学経営学部の久保田進彦教授とインテージが実施した共同研究の結果からも、リキッド消費の傾向を有する人の割合は、他世代よりZ世代において高いことが示されています。
冒頭の疑問への解を明らかにするため、今回はリキッド消費と世代の両面に着目し、インテージのアンケートモニターを対象に、「想起されるブランド」と「購入の検討」に焦点を当てた調査・分析を実施します。
以降では、(1)ブランド想起の世代差、(2)記憶されるブランドと買いたいブランドの重なりの2つを「世代間(※2)」で、(3)記憶されるブランドのうち買いたいブランドが占める割合を「リキッド消費傾向の強弱によるクラスタ間」で、計3つの視点による分析結果を紹介していきます。
(※2)当定量調査上の世代区分は、調査時点の年齢にて次のように定義している。
Z世代:16~25歳、ミレニアル世代:26~40歳、X世代:41~57歳、58歳以上:58~65歳