観光従事者の交流は、危機時にどう作用するのか?
売り上げや利益を回復させる事業のレジリエンスについて、危機管理研究では個々の企業レベルで事前の計画や準備、経営層の対応などを主な研究対象としています。一方で、危機下における従業員の行動や、産業全体の動きについての研究は少ないのが現状です。
神奈川大学の髙井典子教授とセントラル・フロリダ大学の原忠之准教授は、「コロナ禍における観光業界のソーシャル・キャピタルとレジリエンス ― SNSグループの分析 ―(PDF)」において観光関連産業の従事者が参加するソーシャルメディア上のオンラインコミュニティを対象に研究しました。
特定の企業ではなく、観光関連の様々な産業・規模の組織に従事する人々が参加したオンラインコミュニティでは、コロナ禍という未曽有の事態にどのように対応するか多様な意見が交わされ、組織横断的な関係が構築されました。
この関係を「ソーシャル・キャピタル」と呼び、この関係が強いほど、その人が所属する事業の回復にプラスの影響があることがわかりました。危機時に従業員が自発的に行った情報交換とネットワーク構築が、その後の事業の成果に影響を及ぼすと示したことは、これまでの研究にはない新たな知見を提供しています。同業種の交流会や勉強会など、組織横断的なコミュニケーションを平時から行うことが危機時の情報共有にも役立つ可能性があります。
平時の観光地の状況とレジリエンス
東洋大学の栗原剛教授と東洋大学大学院博士前期課程の新庄瑳やか氏による「観光需要の集中度と回復力に関する基礎的研究 ― 近年の地震災害とコロナ禍を対象に ―(PDF)」では、観光地の危機からの回復力と、平時における観光地を訪れる外国人の国籍の集中度との間の関係を研究しています。
この研究では、観光地の平時の状態が危機における観光地の回復力に影響があるのではないかという仮説の元、2016年の熊本地震と鳥取中部地震、2018年の北海胆振東部地震、2020年の新型コロナウイルス感染症の4つの危機を対象に分析したところ、これまでの研究で指摘されていたインバウンド依存度(外国人比率)ではなく、本論文で提案している国籍の集中度との間に相関がありました。
3つの地震と感染症とでは若干異なる傾向が見られたものの、地域の観光の担い手である観光地域づくり法人(DMO:Destination Marketing/Management Organization)にとって、平時の誘客方針の参考になる研究だといえるでしょう。