AI普及が進むと、ネット上ではセレンディピティが変わっていく?
MarkeZine:では、買い物に際する検索行動は、AIによりどのように変化していくでしょうか?
朴:1つの大きな変化として、AIにより自分の望み通りに検索することに限界を感じていた消費者の課題が解決されていくと考えています。
たとえば、YouTube動画で目にしたランニングシューズが気になったとします。ですがそのシューズが初めて見るブランドだったら、どういった言葉で表現して検索すればいいか悩んでしまいますよね。実は調査でも回答者の半数以上が「自分が欲しいものを言葉で表現するのは難しいと感じたことがある」と回答しています。
色、質感、雰囲気など言語化しにくい要素が、検索を難しくする要因の1つです。AIを活用したGoogleレンズでの画像検索などは、「言語化が難しい」という検索時の課題を解決することになるでしょう。
MarkeZine:なるほど。先ほど、消費者は買い物に際する検索においては「その人にとって意味ある情報を効率的に収集できるか否か」が重要になってくるとおっしゃっていました。AIによりこうした情報検索の在り方に近づいていくのでしょうか?
朴:はい。ここで言う「あなたに意味ある情報」とは、検索者の意図と潜在的な行動までくみ取って提供されるパーソナライズされた最適な情報です。AIにより消費者は、自分に無関係な情報を避けながら、自分では探せなかったけれど実は自分向きの情報も手にすることが可能になってきています。
これにともなって、検索時に「新たな気づき」を得る機会も増えていくと考えられます。たとえば、私はランニングが趣味なのですが、マラソン練習のモチベーションを上げるために新しいランニングウェアを探していたら、いつの間にか山中湖のコテージの予約をしていた……という経験があります。他にも、「ベビーカーを探しているうちに生命保険の加入も検討し始めた」「転職情報を調べていたら英語の体験学習を申し込んでいた」といったこともありました。
このように、ある探し物をしていた時に、それとは違うまた別のものと出合うことを「セレンディピティ」と言いますが、AIの時代においてはセレンディピティの偶然性すらなくなるのかもしれないと考えています。
マーケティングでは「インサイト把握」がより重要になる理由
MarkeZine:では、検索にAIが組み込まれていくにあたり、マーケティングにはどのような変化が求められてくるでしょうか?
朴:デジタル上では特定のターゲットを定めてリーチするという手法・考え方が用いられてきましたが、今後はブランドと消費者がお互いに歩み寄れるような環境がベースにあるマーケティングへと変化していくと思います。その際、AIは情報を求めている消費者と情報を提供したい企業の橋渡し役になるでしょう。そういう意味でも、企業は1st Party Dataの活用の検討を進めていくべきだと思います。
具体的には、自社の商品・サービスを他社よりも優位に見せるといった「優劣」を競うアプローチではなく、自社の商品・サービスに関連性の高い消費者を発見して、その人にとって意味ある情報を提供することに注力していくことになると考えられます。たとえば、シャンプーを選ぶ際、香りや効果・効能を重視する人もいれば、原料がオーガニックか、動物実験はされていないか、といった健康面・環境面を気にする人もいます。これらはすべて、1つのシャンプーの商品情報としてあり得る要素です。
つまり、同じシャンプーを購入するにしても、人によって重視する要素は異なります。そうした部分をAIのサポートで分析することで、個々の消費者に合わせた多様なコミュニケーションを実現していくことがこれからは求められてくるでしょう。
ともなって、生活者が買い物を通して満たしたい「根本的な望み」について考える重要性も高まると考えます。たとえば、ランニングシューズを新調したいと思っていても、深層心理では「心機一転して何か変えたい」といった根本的な望みがあるといったケースもあります。その場合は、ランニングシューズを買うより、次のマラソン大会にエントリーする、ジムやランニング教室に入会してトレーニングするといった行動が「最善の選択」になり得る可能性もあるからです。
