ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、12月3日、日本を含む世界73の国・地域を対象に実施したAIに関する成熟度を評価・分析した調査レポート「The AI Maturity Matrix: Which Economies Are Ready for AI?」を発表した。
調査では、同社が開発した「AI成熟度指標」を活用。「AIによる影響の大きさ」と「AI対応力」で評価を行っている。
対象の国・地域の7割以上がAIによるディスラプションへの備えが不十分
調査の結果、多くの国・地域で、AIが引き起こすディスラプション(破壊的変革)に対する備えが不十分であることが判明した。調査対象となった国・地域の70%以上が、エコシステムへの参画や人材、研究開発(R&D)などの重要な項目において、中央値を下回る評価だった。
「情報通信」「小売・卸売業」などの6つの産業がAIの影響を特に受けやすい
AIによる変化の影響を特に受けやすい産業は、「情報通信」「ハイテク製品」「小売・卸売業」「金融サービス」「公共サービス」「自動車製造」の6つであることがレポートの結果でわかった。つまり、GDPに占めるこれらの産業の割合が高い国・地域は、AIが引き起こすディスラプションの影響を受けやすいと考えられるという。
具体的には、金融サービスがGDPの約30%を占めるルクセンブルクや、金融サービスが22%の香港、小売・卸売業が16%、金融サービスが14%のシンガポールが該当する。
一方、「建設業」「農業」「家具製造業」などのAIによる変化の影響を受けにくい産業が多い国・地域は、ディスラプションの影響が比較的小さいと考えられるとのこと。農業が13%、建設業が11%を占めるインドネシアや、農業が17%、建設業が8%のインド、農業が36%のエチオピアなどがこれに該当する。
なお、日本のGDPは、AIの影響を特に受けやすい情報通信・ハイテク産業が合計7%、さらに小売・卸売業が13%、公共サービスが17%、ビジネスサービスが20%といった産業で構成されており、AIによる影響の大きさは中~大程度と評価された。
AI対応力が高いのは、米国、カナダ、中国、シンガポール、英国の5ヵ国のみ
AI対応力については、BCGのASPIREフレームワークを構成する6要素に基づいて評価を行った。6要素とは、「目標設定(Ambition)」「スキル(Skills)」「政策と規制(Policy and regulation)」「投資(Investment)」「研究とイノベーション(Research and innovation)」「エコシステム(Ecosystem)」のことを指す。
評価対象になった73の国・地域のうち、AI対応力が高い水準に達しているのは、米国、カナダ、中国、シンガポール、英国の5ヵ国のみ。これらの経済圏は、スキル、R&D、エコシステム、投資の項目で特に先行している。また、スキル面で見ると、米国とシンガポールが豊富なAI人材を享受していることがわかる。
投資面では、多数のAIユニコーン企業を擁する米国がリード。一方、R&Dでは中国が特許数、AI関連の学術論文数で一歩先を進んでいる。
なお、日本はスキル、政策と規制の2つの項目で高く評価された。特に、政府の実行力が表れる後者のスコアは、東アジア諸国の中で最も高い結果となった。
2つの指標を総合的に分析し分類した6タイプ
さらに、BCGは、AIによる影響の大きさと対応力の2つの指標を総合的に分析することで、73の国・地域を、導入状況の異なる6つのタイプに分類した。
- AIパイオニア:盤石なインフラを築いて多様な産業でAIを活用しているAI導入の先駆者。R&Dや雇用に惜しみなく投資を行っており、教育システムの下で高度なスキルを持つ人材が豊富に育つ。同タイプに該当する国・地域は、世界に向けてより多くのAI技術、サービス、スキル、投資を提供し、今後数年でAIがGDPに寄与する割合がさらに大きくなると見込まれる。
- バランス型挑戦:AIの影響を受けやすい産業の割合が高いものの、対応力の高さによってバランスを保っている。主に欧州の高所得国で構成されているが、日本もこのタイプに該当する。同タイプの1つであるドイツは、大規模な情報通信技術(ICT)産業や先端製造業の割合が高いため影響を受けやすい。欧州以外ではマレーシアが注目を集めており、国家AIロードマップ、テックハブ、大学での人材育成を通じて、政府がAIに注力している。
- 成長型挑戦者:工業・資源依存型の産業構造のため、AIの影響を受けにくい国・地域が多く含まれる。インド、サウジアラビア、インドネシアなどが該当する。このタイプに該当する国・地域の政府も「バランス型挑戦者」と同程度、AI導入に積極的に取り組んでいる。
- 脆弱な実践者:AIによる変化の影響を受けやすい産業が多い上に対応力も低く、ディスラプションに対して脆弱な国・地域。マルタ、キプロス、バーレーン、クウェート、ギリシャ、ブルガリアなどが該当する。AI導入を加速させ、潜在的なリスクの軽減が求められる。現在はAIによる影響の大きさと対応力の間にギャップがあるかもしれないが、インフラや教育への投資を通じて早期に巻き返せる可能性は十分にある。
- 段階的実践者:AIを緩やかなペースで導入している中所得国が多く含まれる。観光・繊維・木材加工・農業などの非ハイテク産業を中心に構成されており、現時点で企業にとってAI導入が必須ではない状況にある。
- AI新興国:AI導入の初期段階にある国。AIシステムの統合や競争力の面で基本的な水準に達するために、まずは基礎となる戦略やインフラを構築する必要がある。このタイプに該当する国々には国家的なAI戦略や包括的なアプローチが欠けており、スキルを持つ人材や投資も不足している場合が多い。加えて研究論文、特許、スタートアップ面での活動も乏しい。
【関連記事】
・CMO200人に生成AI活用を調査 最も成長が期待される領域はパーソナライゼーション【BCG調査】
・企業のAI導入意向、「人手不足対策」は8割超えに/導入前後の課題は「運用・導入コスト」【電通調査】
・パナソニックHDとPHP研究所、松下幸之助の人物再現AIを開発 同氏の理念継承を目指す
・Criteo、世界の旅行トレンドに関する調査レポートを発表 3割が旅行の計画にAIを活用
・オルツ、AI技術を用いた音声対話システム「altTalk」を発表 会話時の応答速度は0.53秒に