先のターゲットを見据えて、コミュニケーションを
田中:社内の人が構想力を持つためには、どういうトレーニングが必要になるでしょうか?
瀬戸口:それは「考える」ことです。このメッセージは、現在の世の中にどう伝わるか? 5年後、10年後はどうなっているか? さらには、今このメッセージを受けたオーディエンスに将来どういうパーセプションを持っていてほしいかなどを、ひたすら考えることが大切だと考えます。
田中:ある程度、時間軸を持ってクリエィティブを考えることが大事なんですね。

瀬戸口:BtoBの場合、顧客である意思決定者にも世代交代の時期が必ず来ます。その時に、新しい主役になるターゲット層の人たちにいきなりメッセージを発信してももう間に合いません。少ない予算の中でも、一定の予算をネクストジェネレーション、極端にはZ世代に対しても発信していくことを考えるべきだと思います。
たとえば、横河電機は「Co-innovating tomorrow」をコーポレートスローガンにブランディングを推進しています。横河電機はレベニューの90%以上をIA事業が占めているので、以前はIA事業のビジネスコンセプトでブランディングを推進していましたが、それを創立100周年を機に変えました。少し先を見据えて、コーポレート全体のあるべき姿を考え、「Co-innovating tomorrow」にアップデートしたわけです。
西田:まさに日立でも「社会イノベーション」を掲げた時、同じような議論をしました。日立グループは、情報通信、社会インフラもあれば家電もやっていますし、素材・マテリアルなどまで幅広い事業を展開しています。「社会イノベーション」というスローガンについて、家電事業に説明に行った時に「家電はもういらないんですか? 僕たちは売却される対象なんですか?」と言われたと聞いています。
田中:そうなりますよね。そういった時は、現場に出向いて直接対話して、説得するというプロセスが必要なんでしょうか?
西田:そうですね。「家電も社会インフラのひとつとして、社会の役に立っています。それは家電製品で培った技術やエッセンスが、ITにもインフラのオペレーションシステムにも活かされているためです。だからそういう意識を持たないでください」と丁寧に説明をして回りました。コーポレートとして、会社の将来を見据えたメッセージ・スローガンを掲げることの難しさもよくわかりますし、掲げた後、社内の共感を得る過程がいかに大事かというのもよくわかります。
田中:現在西田さんは、キヤノンマーケティングジャパンでデジタルメディアを担当されています。メッセージ戦略のうち、メディアの選択についてどのような所感をお持ちですか?
西田:デジタルといっても、ソーシャルメディアやウェブ広告単体だけではありません。イベントと連動する、あるいは新聞で発表したものと連動するなど、何かしら連動があってこそ、デジタルコミュニケーションが活きてくると思っています。
このようにお話しすると、何か複雑なことをしている印象を受けるかもしれませんが、私は、メディアプランニングはやはり王道でいくしかないと思っています。メッセージを届けたい人に対して、メッセージを届けるための最適な手段を考える、という基本に忠実であるべきです。
また、メディアの選定に限らず、最近はコンテンツ作りにも注力しています。コンテンツをしっかり作った上で、ウェブ上で導線を引き、見てもらう。そうしたことを丁寧にやるのが、結局は一番の近道のように思います。
成果の可視化は不可欠、目標の達成度合いがわかると良し
田中:本日最後の議題です。どのようにCBSs活動を評価し、次のアクションに繋げていけばよいでしょうか?
瀬戸口:CBSsについても「可視化」は絶対に必要です。事業会社の立場では、自分たちの活動に対する説明責任を果たすという意味でも、数値化・定量評価・可視化、これはもう絶対だと思います。
ただ単に「企業イメージはどうか」を調査するのではなく、コミュニケーションの目的をいかに達成できたかを把握するために、どういう質問で、どういう調査方法をとるのかをしっかり考えるべきです。そうでないと、的が外れた調査・評価になってしまいます。目的達成度、目標達成度をしっかりと捉えることが大事だと思います。
田中:たとえば、横河電機では対象者はどのような方を対象に調査をされていましたか?
瀬戸口:コアは、IAのディシジョンメーカーでしたが、ポテンシャルユーザー、競合のユーザーも含め、とこまで広げるかを考えていました。あとは先ほど申し上げた未来世代ですね、ネクストジェネレーションの人たちがどう捉えているかということを見ていこうとしています。
田中:最後の議題は消化不良感が否めませんが、ここでタイムアップとなってしまいました。本日は長時間貴重なお話ありがとうございました。