理念浸透に「ブランド投資」が効く4つの理由
こうした各ステップ、各施策に一貫して重要なのが「ブランド投資」、特にクリエイティブやデザインを活用してブランドを構築していく取り組みです。その理由は大きく4つあります。
1つ目は、文字だけでは表現しきれないニュアンスやテンションを伝えることができる点です。たとえば、理念に「情熱」という言葉が含まれていた場合、それが「外に向かって発露する情熱」なのか、「内に秘められた情熱」なのかといった違いは、文字だけでは伝わりにくい。視覚的な要素を活用することで、こうしたニュアンスまで伝えることが可能です。
2つ目は、社員の感情に働きかけることができる点です。理念浸透のステップからわかるように、「共感」以降は社員の感情が大きく関わってきます。共感は押し付けでは生まれないからこそ、自然と理念を好きになってもらう工夫が必要です。そこで、発話したくなるようなコピー、ついつい使いたくなるようなデザインといった、クリエイティブが力を発揮します。
3つ目は、ザイアンス効果(単純接触効果)による、理念への好意度の向上です。たとえば、コーポレートサイトや社員の制服に、理念を表現したデザインを反映する。それを毎日目にすることで、無意識的にその理念を好きになったり、共感しやすくなったります。
4つ目は、採用を通じて望ましい企業文化を醸成するサイクルを強化できる点です。採用候補者は、企業のブランドを客観的によく見ています。クリエイティブやデザインを活用して正確かつ魅力的に理念を伝えることで、企業が望む方向性や価値観を共有する人材を採用しやすくなります。結果、近い価値観を持つ社員が増え、企業文化がさらに強化されます。
企業理念を単なる言葉として掲げるだけでなく、それをデザインやクリエイティブを通じて、視覚的に表現すること。言い換えれば、ブランド投資によって、理念を日常的に触れることのできるものとして具現化することが、理念浸透を進めるのです。
【事例】大手水道管メーカーのリブランディングと理念浸透
ここからは私たちが支援した具体的な例をご紹介しましょう。水道管やガス管の製造を通じて生活インフラを支えてきた一部上場企業である日本鋳鉄管の取り組みです。
近年、業界全体の生産量減少や価格競争の激化に直面した同社は、新たな成長を目指して社員の意識改革とブランド再構築に着手しました。戦略策定やブランド定義の議論からプロジェクトをスタートし、企業理念(ビジョン、パーパス、フィロソフィー、ミッション)および行動指針としてのステートメントを策定しました。また、理念体系の構造を整理し、社員のみなさんに理解してもらいやすいかたちに整えました。
次に、コーポレートロゴを含むビジュアルアイデンティティを刷新しました。新しいロゴは、生活の基盤である水の流れを支え続ける同社のあり方を表現しています。さらに、ロゴやデザインが社内外の様々な場面で一貫して使用できるよう、展開例や使用ルールを明記したガイドラインを作成しました。
企業理念を基にコーポレートサイトも刷新し、社内外のステークホルダーがパーパスやビジョンを深く理解できるよう、特設ページを2つ設けました。1つ目は、「水が途切れない世界を実現する」というパーパスの必要性を伝えるページです。2つ目は、変革を遂げる日本鋳鉄管のビジョンを視覚的に表現したページ。どちらもグラフィックを活用し、直感的に理解しやすい構成としています。
以上を含む様々な施策によって「社員たちに新しいことに積極的に挑戦する意識が芽生え始めた」「会社としても新たなステージに進んでいる」と、同社代表取締役の日下社長は語ります。
ブランド投資は社内向け施策にも有効
「ブランド投資」というと、多くの方は社外に向けた取り組みを思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、実は社内に向けて行うことが、社員の意識変容を促し、独自の企業文化を生み出す鍵となるのです。企業理念を策定・刷新したものの、期待していたように成果を得られていない場合は、今回紹介した「理念体系の整理や言葉選びのポイント」「理念浸透の5ステップ」などを参考にしつつ、ブランド投資の方法を検討してみてはいかがでしょうか?
