UGCとPGCを使い分ける 4社体制でマーケティングを展開
━━近年、企業のマーケティング活動ではインフルエンサーの起用が以前にも増して浸透しています。花王のヘアケア領域としてインフルエンサーの起用を行う上で、従来の施策との違いをどのように整理しているのでしょうか。

マーケティング部門で衣料用洗剤『アタック』などを担当。営業部門を経てヘアケア商材のマーケティングに従事。2020年から『メリット』、2023年から『エッセンシャル』のブランドを担当
花王 矢野由佳:現在のお客様の購買行動は、ブランド広告による商品認知だけでなく、SNSでの口コミを参考にして購入を決める傾向が強まっています。そのため、SNSでの口コミ施策やインフルエンサー施策など、総合的なUGC(ユーザー生成コンテンツ)施策の重要性が増しています。
従来のブランド広告、PGC(プロフェッショナル生成コンテンツ)の役割は、ブランドの認知と好意を獲得することです。お客様がブランドと接する最初の機会として想定されるため、ブランドイメージを刷新したり、注目を集めたりという点で依然として重要です。
我々が展開する『Essential(エッセンシャル)』は発売から49年を迎えるブランドですが、若い世代での認知度が落ち込み、一時期のSNSでは「実家にあるシャンプー」といったように昔ながらのイメージを持たれていました。そこで2024年4月に若年層に人気の高いグローバルグループNewJeansを起用した広告でブランドイメージの刷新を図りました。

矢野:一方、UGCの役割は、SNS上での評判形成を通じて購入を促進することです。美容師・成分解析士やインフルエンサーによる商品評価、口コミランキングなどが重要視される中、ご評価いただく機会を生むため、当社としても積極的な取り組みをしてきました。
━━『エッセンシャル』のリブランディングでは、PGC領域の施策だけでなく、UGC領域の施策も複数媒体で実行したと伺いました。どのような体制で行ったのでしょうか。
矢野:このプロジェクトは4社が連携して行っています。まず花王はプロジェクトリーダーとして、ブランド戦略からUGC領域の施策を含むコミュニケーション全体の戦略を統括しています。スパイスボックスさんは花王に駐在する形で、多岐にわたるデジタル施策全般の進行管理を担当していただいています。ウィングリットさんはUGC戦略の立案、進行管理、検証まで一気通貫で担当していただき、PGCに関しては博報堂さんが入る形で、4社が一体となってプロジェクトを推進しています。
多様化により全体戦略・管理は限界に 体制の再構築を判断
━━今回このような体制を構築した狙い、背景をお教えください。
矢野:施策が多種多様化し、花王から複数の代理店に施策をお任せするようになり、全体の管理・コントロールがしきれない状況になったことが課題の一つでした。
その結果、統合ブランドコミュニケーションの全体戦略は作りきれず、UGC施策とPGC施策との間で一貫性が欠けてしまうことに。また、UGC領域で協力を依頼する各社でも、進行管理や効果検証時のフォーマット、評価指標が異なるため一括管理は非常に困難となり、実行はできても「次につなげるためのPDCAを回す」ことは難しい状況だったと言えます。
当時のブランドマーケティング部門では全体戦略を整理しようにも、デジタルやUGC、SNSの知識や運用リソースが不足していたことが課題であり、知見の蓄積もしづらい状況だったため、戦略構築や管理の立場にもデジタルマーケティングおよびインフルエンサーマーケティング領域の専門家のサポートが必要だと考えたのです。

2023年から花王ヘアケア事業部に常駐し、デジタル周辺の施策をハンズオンでサポート
スパイスボックス 梅ヶ谷葵:花王の社内にいながらデジタル領域の知識を持つ立場として、全体戦略に基づいたより良い施策の実現に向け、代理店各社と橋渡しができる役割を担ってきました。特にPGCとUGCを上手く連動できるような言語化や指標作りといった調整で花王、ウィングリットさんとコミュニケーションを多く取ってきました。
ウィングリット 安藤公春:花王さんの以前の体制ではTikTokやInstagramといった媒体ごとに異なる代理店を起用されていたため、「媒体横断での俯瞰的なUGC戦略の立案ができていない」という課題を伺っていました。『エッセンシャル』の戦略プランニングに参画するにあたり、インフルエンサーマーケティングにおいて専門性のある当社の視点で全体戦略を見て、各媒体横断での戦略を立案していく必要性を感じていただき、このようなパートナーシップが実現したと理解しています。