ミッションと裏腹、Googleによる情報・データの独占利用
また、Googleは自社のミッションを無視しているという意見も大きい。Googleのミッションは、「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」だ。このミッションがあるからこそ、インターネットの民主化に寄与する企業だと信じて、多くの政治家がサポートしてきたし、多くの人がファンになったという。
だが、実際には、Googleは収集した情報・データを囲い込み、自社の利益のためにのみ使っている(ように見える)。本来は、世界中のすべての人がアクセスできて使えるようにするべきだ、という話だ。この話は、個人情報の権利に関する議論が盛んになった2015年ごろから耳にするようになった。今回の米国司法省が提示した是正案では「検索の改善に使うデータを外部企業に低価格で提供」と明示されている(参照記事:Google分割、検索・広告の一体モデルに打撃)。
検索データに限らず、ブラウザChromeで収集している閲覧履歴データやYouTubeの閲覧履歴データなど様々なデータをGoogleは収集している。Googleのミッションに照らせば、そのすべてのデータを世界中のすべての人々、すべての企業に開放して、アクセスできて使えるようにするべきだ。そうでなければ、Googleはミッションを取り下げるべきだろう、という厳しい意見も聞いたことがある。もちろん、各ユーザーの同意を取得して実施すべきなのは言うまでもない。
米国司法省が検討している、より良いデータ利活用の可能性
私は、この話をはじめて聞いたとき「そんなこと、Googleにできるわけがない」と思った。だが、2018年施行のGDPRや2024年の米国反トラスト法訴訟の背景には、そのような個人情報に対するGoogleの対応、ミッションと現実の乖離に対する批判も、脈々と流れているようだ。
これは、GDPRの導入で注目を浴びた「データポータビリティ」にも通じる。「データポータビリティ権とは、個人がサービスを利用する過程で運営企業に収集・蓄積された自身の情報(利用履歴や入力した情報など)を再利用可能なデータとして受け取る、あるいは別サービスに移行できる権利のこと。この権利を利用して個人の元に集約された「統合パーソナル情報」は潜在的に高い価値を持つと期待されている(参照記事:データポータビリティ時代におけるパーソナル情報の利活用)。
データポータビリティ権をGoogleに当てはめると、たとえば、日本人がGoogleでどんな検索をしているか、その具体的な検索キーワードの履歴データ(利用履歴や入力した情報など)を「再利用可能なデータとして受け取る、あるいは別サービスに移行できる権利」といえる。
さらにいえば、米国司法省の是正案にある「検索の改善に使うデータ」とは主に、検索履歴データやブラウザChromeでの閲覧履歴データ、YouTubeなどの閲覧履歴データであるとするならば、それらを、たとえば、日本の民放局やTVer、ABEMAなどの動画配信サービス(別サービス)に移行して、より質の高いターゲティング広告のために利用してもらう。それによって、より日本人のニーズに合致した広告配信が可能で、かつ、コンバージョン率が上昇し、テレビ局などが儲かる。
たとえ話でわかりやすくいえば、そのような可能性を、米国司法省は検討しているわけだ。
テレビ局だけではなく、より効果的・効率的に広告配信ができるようになれば、当然、日本のすべての広告主企業にメリットがある。また、より関連性の高い広告に接することになるユーザーにもメリットがある。そして、テレビ局の収益力がアップすると、当然、コンテンツ制作にも多くのコストをかけることができ、より質の高い番組を楽しむことができる。コンテンツ制作に関わるクリエイターや制作会社・広告代理店、そして、演者の方々にも、より高い報酬を提供することになるだろう。
米国司法省は、「データを外部企業に低価格で」提供するとしている。それによって、Googleのデータをそのミッションの通りに、「世界中の人がアクセスできて使えるようにする」ことになる。その結果、多くの人々に利益を生む。それなのに、Googleは、そのデータを独り占めしているのだ。
