「一周回った」企業のショート動画活用、よくある課題と解決策
企業のショート動画活用は一通りのトレンドを経て、より戦略的な段階に入りつつある。
「今は、『一周回った』状態といえるでしょう。初期段階では『トレンドだから』と取り組む企業が多かったのですが、今は単に動画を投稿するだけでなく、どれだけ事業貢献しているかまで見るフェーズに移行しています」(鈴木氏)
新たなフェーズに入った今、企業が直面している主な課題は「制作コストと時間」、そして「投資対効果の測定」の2点だ。
課題1:制作コストと時間
金丸氏は「情報量が格段に多いショート動画の制作を、コンスタントに継続するための仕組み化が非常に難しい」と語る。企業としては短期的な取り組みではなく、長期的なスキームで考える必要がある。
このような課題に対して、金丸氏は「マルチユースの発想」を解決策として挙げた。たとえば、ショート動画をSNSだけのために制作するのではなく、デジタルサイネージなど他の動画配信先の活用も想定しておく発想だ。戦略設計の段階でマルチユースを検討しておけば、コストと時間の効率化を図ることができる。
「プラットフォームごとの特性があるので、そこを考慮して作るのが最も効果的です。ただ、全部を作り分けて何も出せなくなるより、どこかに主軸を置きながら、他のプラットフォームに活用していくことも現実解です」と金丸氏は補足する。
課題2:投資対効果の測定
もう1つの課題は「投資対効果の測定」だ。動画の再生数やいいね数だけでない測定可能な指標が増えているものの、現状はオウンドアカウントの管理画面や広告管理画面上で、事業貢献度を可視化することは難しい場合がある。しかし、技術的には可能になってきているという。
たとえば、電通・電通デジタル含め各社が開発に力を入れる「データクリーンルーム」は、プライバシーを保護しながら異なるデータソースを接続できるため、「実際に購買や来店に至ったか」も分析可能になっている。
「ショート動画を活用してどのように事業貢献していくか、戦略設計からクリエイティブ制作、分析まで一気通貫で考えることが重要です」(鈴木氏)
ショート動画活用で陥りがちな失敗
企業のショート動画活用において、陥りがちな失敗は何だろうか。代表的な2つのパターンとその対策を紹介する。
1つ目の失敗パターンは、ショート動画を単なる「デリバリーメディア」の1つとして捉えてしまうことだ。金丸氏は「ショート動画ならではの魅力やルールを踏まえず、一方的に言いたいことを発信しているコンテンツは、ユーザーの受容性が低く視聴が伸びません」と語る。
成功するためには、ショート動画の特性を理解し、プラットフォームごとの文化を尊重することが欠かせない。また、SNSはユーザーが主役である。企業が自然な形で情報を伝えるためには、クリエイターやインフルエンサーを通した発信も手段として有効だという。
2つ目は、検証回数の不足だ。「1つのショート動画を検証しただけで良し悪しは判断できません。本当はいいコンテンツでも、数秒でスワイプされてしまう世界なので、タイミングや1つの要素が崩れると伸びないことがあります」と金丸氏。構成や順番を変えるだけでも反応が大きく変わることがあるため、複数のバリエーションでのトライアンドエラーが重要だという。
鈴木氏も、一発で「バズる」ことを目指す難しさについて指摘。「何がどう跳ねるかは1つの要素で大きく変わるので、どれだけ打席に立てるかに尽きます」と補足する。単発で話題化を狙うのではなく、コンテンツを継続して発信していくことが持続的に成果を上げていく秘訣だろう。