データドリブンに営業と経営の課題を解決
データ活用は、経営と現場で目的や目線が異なる場合が多い。経営層は「データによる生産性のマネジメント」を目的におき、現場は「データを通じた顧客理解」を目的におくといった具合だ。
このギャップを埋めつつ、効率的にデータ活用を進めるために、戸松氏は「フェーズ1:営業生産性の向上」と「フェーズ2:顧客理解」に分けて、施策を実施していくことにした。
フェーズ1:営業活動を「個」から「チーム」へ
データ活用は、活用できるデータがなければ、議論が始まらない。データドリブンなセールスイネーブルメントを目指しているが、うまくいかないという企業は、おおよそ「営業によるデータ入力」の壁にぶつかっているのではないだろうか?
戸松氏は、データ活用には「正のループ」と「負のループ」があると話す。
データ入力量が少ない→情報量が少ないために状況を可視化できない→正しい行動・意思決定に繋がらず、データの必要性が理解されない→結果、データが入力されない……というのが負のループ。ニワトリ・タマゴのような問題だが、営業によるデータ入力が進まないと、状況は改善されない。
逆に、ある程度営業がデータを入力するようになると、データをもとに考察を行う余地が生まれ、データ活用の成功体験が生まれてくる。つまり、兎にも角にも「営業のデータ入力」の難所を乗り越えなければならない。
営業にデータを入力してもらうために、各企業で試行錯誤が行われている。中には、営業担当者の入力量を評価に反映するといった試みをしている企業もあるだろう。しかし、戸松氏は「実は一定の創造性が求められる仕事において、飴とムチを与える手法は一時的には効果があっても、長期的には効かないと言われています」と話す。
戸松氏が実践しているのは、よりセキュアベースなアプローチ。つまり、データを入力することによって、自身の立場が保全されていくといった方向にしている。
たとえば、データ入力のマネジメント単位を「個人<チーム」に変えると、「自分がデータを入力しなければチームに迷惑がかかってしまう」という意識に変わっていく。BtoBビジネスにおいては、個人でさばける案件には限界があり、チーム単位での協力が必須だ。マネジメントの単位を変えるだけで、データ入力~活用のサイクルが回りやすくなっていく。
こうした働きかけの結果、NTTコミュニケーションズでは2023年から2024年でデータ入力量が2倍に増加。1年で60万件以上のデータが現場から上がってくるようになった。
フェーズ1:経営マネジメントの課題もデータで改善
日々現場から上がってくるデータは、経営にも活かされている。NTTコミュニケーションズでは営業活動数を商談数に紐づける取り組みを進めており、既に80%が連動しているという。これにより、マネジメント側では営業活動の生産性が見えやすくなり、リソース配分や戦略策定の最適化に繋がっている。
加えて、未商談受注の撲滅にも取り組んでいる。未商談受注が多いと、年度の受注予測がずれ、企業活動に影響が出るだけでなく、ステークホルダーへの説明責任にも揺らぎが出てくる。また、棚からぼたもち的な受注は、受注までのプロセスを評価できないという問題もある。営業のデータ入力が徹底されるようになったことで、現在NTTコミュニケーションズでは、約99%の受注でパイプラインを可視化できているそうだ。
このようにして、経営マネジメントの課題もデータドリブンに改善し、社内の上下左右から広くデータ活用を浸透させていった。
