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デジタルディスラプションとは?業界変革の波に乗る方法と事例を紹介


 IT技術の発展により生活が豊かになった反面、業界によってはデジタルディスラプションが起こり、これまでのビジネスを大きく見直す必要が生まれることも多くなっている。他社に遅れをとることで、企業の存続の危機に直面する可能性さえあるので、技術の見直しは急務だ。そこで本記事では、デジタルディスラプションの概要や身近な事例、既存ビジネスへの影響、対応するための取り組みなどについて紹介する。デジタルディスラプション時代に求められる組織改革について知りたい人は、参考にしていただければ幸いだ。

デジタルディスラプションとは

 デジタルディスラプション(Digital Disruption)とは、新しいデジタル技術やビジネスモデルの登場により、新しい商品やサービスが生まれ、従来の企業や製品・サービスに破壊的な影響を与える現象を指す言葉だ。

 ディスラプションは「崩壊」を意味する言葉で、1992年にアメリカの新聞で使われたのが始まりと言われている。日本語ではデジタルディスラプションを「デジタル破壊」「デジタル変革による創造的破壊」などと訳すこともある。

 すでに様々向を敏感に注視し、自社の強みを活かしたデジタル戦略を展開する必要があるだろう。

デジタルディスラプションが起こる理由

 デジタルディスラプションが起こる原因には、DXがうまくいっていないことと、イノベーションのジレンマが起きていることが挙げられる。それぞれ順に紹介しよう。

DXがうまくいっていない

 DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、最新のデジタル技術を活用して、既存のビジネスモデルや業務プロセスを変革することを指す言葉だ。しかし、多くの企業ではDXがうまく進まず、デジタルディスラプションの波に飲み込まれる原因となっている。

 DXが失敗する主な理由としては、以下のような理由が挙げられる。

  • 経営層がDXの重要性を理解できていない
  • 既存のシステムに依存し過ぎている
  • 組織文化の変革に躊躇している
  • 顧客体験の向上に意識が向いていない

 DXに取り組むことで新たなビジネスモデルやサービスの創造が可能となり、顧客とのエンゲージメントを高められるだろう。

イノベーションのジレンマが起きている

 イノベーションのジレンマとは、規模の大きな企業が、新たな技術を持った新興企業に競争で敗れることを言う。

 大企業は新興企業と比べてリスクを取りにくく、新規事業や新市場への参入が遅れがちだ。一方、規模が小さくフットワークの軽い新興企業は、大胆なアプローチを取れるため、急速な成長を遂げることもある。そのため、大企業が新興企業に遅れをとり、シェアを奪われてしまうことが起こり得るのだ。

 つまり、大企業が時間をかけてリスク分析や検討を重ねているうちに、新興企業が新たな技術を投入し、デジタルディスラプションが起きるという流れだ。そのため大企業は、リスク分散するためのチームを設けたり、スタートアップ企業とのパートナーシップを強化したりするなど、積極的なイノベーション戦略を採用することが必要となるだろう。

デジタルディスラプションの身近な事例

 デジタルディスラプションは身近なところでもたくさん起きている。ここではその一部を紹介しよう。

音楽・動画配信

 以前は実店舗でCDやDVDの購入・レンタルを日常的に利用していた。しかし、NetflixやAmazonプライムなどのサブスクリプション型サービスやオンラインストリーミングサービスが次々と創出されたことにより、実店舗を持たなくても音楽や動画を提供できるようになり、CD・DVDを扱う企業に大きな影響を与えることとなった。

フリマアプリ

 メルカリやラクマといった、オンラインで物品を売買できるフリマアプリが急速に拡大したことから、自宅にいても匿名で取り引きすることが可能となり、市場の多くのニーズを満たしている。それまでCtoCの代表格だったオークションサイトに比べて取り引き期間が短く、購買がスピーディーな点も人気が爆発した理由と言えるだろう。

 フリマアプリの登場により、リサイクルショップなどに大きなダメージを与え、中には倒産の危機に立たされた企業もあるほどだ。

タクシー配車アプリ

 アメリカでは、タクシー配車アプリの台頭により、破産に追いやられたタクシー会社もある。

 タクシー配車アプリは、スマートフォンがあればいつでもどこでもタクシーを手配できたり、事前にスマートフォンから決済できたりする利便性の高さがメリットだ。タクシー配車アプリが脚光を浴びたことにより、タクシーの利用者だけでなく、ドライバーまでもが配車アプリへと流れ、破産の要因になったと言われている。

デジタルディスラプションが与える既存ビジネスへの影響

 デジタルディスラプションが与える既存ビジネスへの影響は多岐にわたる。ここでは、その中でも特に重要な3つの影響を紹介しよう。

顧客行動が変化し迅速な対応が必要になる

 デジタル技術の進化により、消費者はより多くの選択肢を簡単に比較できるようになった。そのため顧客は、より迅速でパーソナライズされたサービスを求める傾向が強くなっている。

 その中で企業が生き残るためには、日々急速に変化する顧客ニーズに迅速に対応する柔軟性が求められることは言うまでもない。特に中小企業にとっては、顧客の声をリアルタイムで捉えてサービスや製品に迅速に取り入れることが、企業の競争力を上げるために必要不可欠となるだろう。

 そのため従来の市場調査だけでなく、データ分析を活用して顧客の行動やニーズを細かく理解することが重要だ。収集した情報を分析することで、顧客ニーズを先取りしたサービスや製品を開発し、顧客満足度の向上を目指したい。

市場構造が変化し競争が激化する

 新たなテクノロジーを活用したスタートアップ企業が低コストかつ迅速に市場参入してくることで、市場構造の変化が起こり、既存の企業との競争が繰り広げられる。特にデジタル分野では、地理的な制約がなくなり、世界中の企業との競争が一般化している。

 企業が持続的な成長を実現するためには、顧客ニーズに寄り添うタイミングで競争力のある製品やサービスを提供し、顧客を維持し続けることが重要だ。競争力の強化には、単なるコスト削減や効率化だけでなく、イノベーションによる差別化も求められるだろう。

企業文化の変革による新規事業創出の可能性

 デジタルディスラプションは、既存のビジネスモデルや市場構造を大きく変える一方で、企業にとって新たな事業機会を生み出す可能性も秘めている。その鍵として必要不可欠なのが、企業文化の変革だ。従来のやり方に固執せず、デジタル時代に適応した文化を醸成することで、新規事業の創出が可能となるだろう。

 企業が「守りの姿勢」ではなく「変化を受け入れる姿勢」を持つことで、新しい市場やビジネスモデルを開拓し、競争優位を確立することが可能だ。

デジタルディスラプションに対応するための取り組み

 デジタルディスラプションに対応するためには、企業が戦略的に変革を進める必要がある。ここでは、そのための取り組みと、それぞれの対応事例を紹介しよう。

DXの推進

 DXは、単なるITの導入だけでなく、デジタル技術を活用してビジネスモデルや企業文化を根本から変革することを意味する。デジタルディスラプションに対応するためには、企業がデータや最新技術を活用し、競争力を高めることが不可欠だ。

 DXを成功に導くためには、小さな規模からトライアンドエラーを繰り返し、リスクを最小限に抑えながら試行錯誤するのが有効だ。その中で自社に合ったデジタル活用の成功パターンを見つけ、成功体験を元に拡大していくと効果的にDXを進められるだろう。

 また、DXは一度変革に成功したらそれで終わりというわけではなく、中長期的な視野で計画を進めることが重要だ。PDCAを回して継続的にデータの蓄積と活用を行い、さらなる変革を繰り返し続けることで、持続的に競争力を発揮できるだろう。

対応事例:コニカミノルタジャパン株式会社

 オフィス向け複合機や印刷機などの情報機器事業をメインとしているコニカミノルタジャパン株式会社では、2017年から営業プロセスの改革やデジタルマーケティングの実践に取り組んでいる。紙を印刷する機会が減った昨今、利益を生み出すためのビジネスモデルの変革が急務となっていたことがきっかけだったそうだ。

 そこで全社横断のDXプロジェクトに挑戦したことで、セールスからカスタマーサポートまで、企業としてのすべての活動を顧客ニーズに対応できるよう、顧客基盤を作り上げたという。

人材育成や外部委託

 デジタルディスラプションに対応するためには、デジタル人材の確保が重要となる。自社での人材育成や外部委託でデジタル人材を補強すれば、新たな視点が生まれ、デジタルディスラプションに対応できる可能性が高まるはずだ。

 自社での技術開発は、以前の成功体験に固執しがちになり、なかなか新たな情報を取り入れるのは難しいだろう。そこで外部から新たな人材や企業文化を混ぜることで、効率良くこれまでにない風を取り入れることができるはずだ。

対応事例:富士通株式会社

 富士通株式会社は、デジタルディスラプションへの対応として、デジタル人材の育成に注力している企業の一つだ。特に、2021年12月に開始した「Global Strategic Partner Academy」は、その代表的な取り組みと言えるだろう。

 この取り組みは、IT業界全体で課題となっているデジタル人材の不足を解消し、最先端のデジタル技術やノウハウを持つ人材を育成することを目的として行われた。グローバルな教育プログラムをオンラインで展開したり、知識の習得だけでなく、実践的な経験を積むためのプログラムも定期的に実施したりすることで、社内のデジタル人材のスキルアップに成功させている。これにより、デジタルディスラプションに適応する体制を強化できたそうだ。

新規市場の開拓

 市場の開拓は成長の頭打ちを防ぎ、デジタルディスラプションに排除されにくい企業体質を作るのに有効だ。既存の顧客に目を向けるばかりでは、新しい挑戦はなかなかできないだろう。

 市場開拓の意識を持つことで、企業として成長し続けられるだけでなく、新たな価値基準の創造にもつながり、デジタルディスラプションにおいて適切に対処できるようになるはずだ。

対応事例:古河電気工業株式会社

 古河電気工業株式会社は、デジタルディスラプションへの対応として、新規市場の開拓に積極的に取り組んでいる。中でも銅の抗菌性能に着目し、その認知度向上と市場拡大を目指したプロジェクトが注目されている。

 一般消費者の間では銅の抗菌効果の認知度は低く、その普及には課題があった。そのため同社は富士通株式会社のエクスペリエンスデザイン部と協力し、デザインの力で銅の抗菌性能を訴求するプロジェクトを開始したのだ。銅箔を使用した抗菌箸袋や抗菌シール、銅箔をパッケージに使用した菓子などのノベルティを制作し、銅の抗菌効果を直感的に伝えるアイテムを開発した。

 これにより、従来の製品開発とは異なるアプローチで市場のニーズに応えることに成功したという。このように、新たな視点で開発を進めれば、市場の開拓と製品の価値向上につなげられるはずだ。

DXを社内に浸透させるためにすべきこと

 デジタルディスラプションに対応するためには、DXの推進が重要だ。ここでは、DXを社内に浸透させるためにすべきことを3点紹介する。

明確なビジョンを提示し社内全体を巻き込む

 DXを社内に浸透させるには、DXによって何を達成したいのか、会社の未来像や具体的な成果を明確に示すことが重要だ。経営層が率先してDXの重要性を理解し、行動で示しながら社員に訴えかけ、社内全体を巻き込んで取り組む必要があるだろう。

行動を起こし小さな成功体験を積み重ねる

 小規模なプロジェクトからDXを試験導入し、小さな成功体験を積み重ねることが、DXを社内に浸透させるための近道となるだろう。成功した事例を社内で積極的に共有すれば、社内全体のモチベーションを高めることにもつながるはずだ。

 成功事例のデータを継続的に蓄積し活用すれば、持続的に企業の競争力を維持することも可能になるだろう。

社外とも連携をとる

 DXを浸透させるためには、外部ベンダーのサポートや他企業との連携を活用し、自社に不足しているスキルを補完することも必要だ。

 また、外部ベンダーのサポートは、企業経営者のITリテラシーの向上にもつながるだろう。ただし、技術面を外部ベンダーへ丸投げするのではなく、あくまでも経営者自身が主体となってDXを浸透させていくことが重要な点は覚えておく必要がある。

デジタルディスラプションに飲まれない対策を

 デジタルディスラプションは、業界構造を大きく変える要因と言えるが、適切な対応をとることで新たな成長の機会にもなるだろう。

 そのためには、DXの継続推進に意識を向け、柔軟な組織文化を醸成することが重要だ。また、顧客視点を強化し、人材育成や外部リソースの活用にも取り組むと良いだろう。

 小さな成功体験を積み重ねることで、変化を恐れず迅速に適応する力が養われる。こうした取り組みを続けて競争力を維持することが、デジタル化の波を乗りこなすことにつながり、企業の成功への鍵となるはずだ。

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マーケ研究所(マーケケンキュウジョ)

 マーケティングに関する情報を調べ、まとめて届けています。

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MarkeZine(マーケジン)
2025/06/03 12:02 https://markezine.jp/article/detail/48637

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